誰もが持つ「心の暗闇」との正しい向き合い方とは? 精神科医が語る、絵本『ドクターバク』の効能

益田:ドクターバク自身は、暗闇の中で自分の力で崖を上っていました。これは先ほども言ったように、自分で問題を乗り越えていくという描写だと思います。だけど、臨床的な問題として捉えたときに、そもそもその人にとって何が壁なのかということに対して、答えはありません。人生は決断して選択していくことの連続で、常にこれでいいという正解はないんです。診察室の中でも答えが出ないことはたくさんあって、転職した方がいいのか、復職した方がいいのか、そもそも現場を見ることはできませんし、転職したとしてもどれくらいの給料がもらえるかもわからない。医者にアドバイスができることは、残念ながらとても限られています。だからこそ我々は患者さん自身の力を信じて、最終的には自ら判断して乗り越えてもらうしかないんです。『ドクターバク』を読んで、そういうところを理解してもらうのは、有意義な読み方かもしれません。


――大人にとっても学びがありそうな読み方ですね。また、先ほど言っていたように、思春期の子どもにとっても良い一冊となりそうだと思いました。

益田:そうですね。思春期の葛藤など、いろいろな感情が出てくる時期ですから。『ドクターバク』を読んで「苦しんだっていいんだ」と、自分の中に暗い感情があることを自然なものとして受け入れてもらうのは良いと思います。

 あとは、やはり人間関係で頑張りすぎている人にも本書はおすすめです。子育てに疲れてしまっている親御さんや、あるいは管理職で部下を育てなければいけない立場の方は、ご自身のことをドクターバクの状況に置き換えて考えてみると、心が落ち着くのではないかと思います。子どもや部下が抱える問題に寄り添う気持ちは大切ですが、それは結局のところ、ご自身の問題ではありません。もっと相手を信じて、良い意味で距離を取ることは、おたがいが自立するためにも必要なことなんです。逆に、一人で問題と向き合いすぎたり、手を施しすぎたりすると、相手が自分の力で頑張れなくなってしまいます。その意味で『ドクターバク』は、他者との距離感を見定める良いきっかけになるとともに、心の重荷を軽くしてくれる一冊だと思います。

関連記事