『PSYCHO-PASS』が掘り起こした実在の名著たち アニメ10周年で振り返る名言「紙の本を読みなよ」

 近未来の日本を舞台にしたクライム・サスペンス作品として高い人気を誇る『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズが10月11日、テレビアニメの放送開始から10周年を迎えた。最新作『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』が制作中のほか、10月8日からはアクアシティお台場「ノイタミナショップ&カフェシアター」でテレビアニメの復刻上映会も行われており、ファンも活気づいている。

 『PSYCHO-PASS』の舞台は、西暦2112年の日本。人間の内面を数値化する「シビュラシステム」が導入され、犯罪係数が高い「潜在犯」が事前に裁かれるようになった社会で、治安維持活動を行う「公安局」の活躍を描いた人気作だ。

 面白いのは、本作自体がSFというジャンルでありながら、実在するSF小説の古典を読みたくなる作品として、出版業界の注目も集めた経緯があること。「紙の本を読みなよ」とは、アニメ第1期の重要キャラクター・槙島聖護(まきしま・しょうご)のセリフだ。古今東西の作家・思想家に通じ、折にふれて実在の名著から一節を引用する槙島の存在は、『PSYCHO-PASS』の世界が現実と地続きであることを示しながら、SF作品としてのハードルと緊張感を高めたと考えることもできる。

 例えば、サイバーパンクの大家であるウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』、ジャーナリストでもあったインド生まれのイギリス人作家ジョージ・オーウェルの『一九八四年(1984)』、現実の脆さを描き続けたフィリップ・K・ディックの代表作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など、SFファンの必読書といえる名作はもちろん、パスカルの『パンセ』、デカルトの『情念論』などの哲学書まで、物語上の事件や社会の有り様と対応させる形で、槙島はその一節を誦じる。読書家にとっては“ベタ”なラインナップかもしれないが、多くの視聴者にとっては新鮮で、作品を盛り上げる洒落た仕掛けになっていた。

 アニメの人気に呼応して、書店や出版社とのコラボ企画「『紙の本を読みなよ』フェア」も生まれた。2013年3月には、紀伊国屋書店・新宿本店で棚を占拠したが、告知に添えられた《販売係数オーバー300。購入対象です。慎重に照準を定め、速やかに商品を確保・購入して下さい》の文言が心にくい。また同じく、SF作品の雄として知られる早川書房も、前出の『ニューロマンサー』や『一九八四年』をはじめ、自社で出版している作品のオビをコラボ仕様にして展開した。

 いずれもSNSで大きな反響があり、アニメキャラクターの「紙の本を読みなよ」というセリフが現実を動かすという、ちょっとしたムーブメントになった。現在大ヒットを記録している異世界転生作品『本好きの下剋上』や、本が何より好きな令嬢のロマンスを描き、アニメが放送中の『虫かぶり姫』など、「紙の本」が設定に組み込まれた作品も人気を博している昨今。10周年を迎えて注目が集まる『PSYCHO-PASS』という作品とともに、槙島聖護というキャラクターの存在感もあらためて増してくるかもしれない。

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