漫画『少年を飼う』と『野良猫と狼』住む家をなくした少年少女 不思議な同居生活を描く2作品に注目

 ある事情から住む家をなくした年の離れた少年少女が、目の前に突如現れる。放っておくことができず、そのまま一緒に住むことに……。

 なんてことは、漫画作品においては珍しくはないシチュエーションだ。リアルな世界では、こうしたことはそう起きないだろう。だからこそ、ちょっとあり得ないなと少し引いた視点になってしまうところもあり、ストーリーが面白くないとなかなか読み込めないと筆者は思っている。

 また、事情があるにせよ、他人と一緒に住むのは簡単なことではない。それぞれにこれまで生きてきた背景や生活スタイル、性格などはさまざまで。相手が慣れ親しんだ友人や恋人というわけではない、どんな人かもわからない人を家に置くというのだ。他人同士が突然同じ屋根の下で寝食をともにする、考えただけでもなかなかハードルが高い。

 最初は家に置いてもらう申し訳なさ、他人が家にいる不思議な感覚からお互いに気を遣いすぎてしまう。かといって、居心地がいいようにと少しずつ自分を出していくようになると、年齢差や性別、立場や価値観の違いなどで、衝突したりすることも。その衝突で、自分自身のことで気づかされたりすることもある。無理をしていた自分、閉じこもっていた自分が少しずつ変わっていく……なんてことも。

 同居生活をはじめてから、自分も相手も大切にできるようになっていく。お互いにここにいたいと、心穏やかに過ごせる場所ができてよかった。そうした、ちょっとだけつかみどころのない猫のような少年少女との不思議な同居生活を描いた、漫画作品を2つ紹介していきたい。

『少年を飼う』青井ぬゐ(コアミックス)


 都内の会社でバリバリ働く藍は、会社での成績は常に上位、完璧な仕事で上司も唸らす、令和の”鉄の女”などと呼ばれていた。はじまりは、彼女の30歳の誕生日。家の前で眠りこけていた男の子(凪沙)を拾う。それはとびきり綺麗な、ひとりぼっちの猫のようであった。誕生日にひとり飲み歩いていた藍は、翌朝ベッドの隣で寝ている彼をみて混乱する。昨晩の記憶が曖昧で、あんな若い子を部屋に連れ込むなんて、どれだけ酔っていたのか……と猛省。どうやら凪沙は16歳の高校生で、藍の親族に関するとある事情があり、家まで来たというのだ。彼との出会いが、藍の日常を少しずつ変えていくことになる。

 最初はこんな子どもを見過ごせるはずがないと、保護者的な気持ちで家に置くことになった。彼は感情が乏しく、必要最低限のやりとりしかしない。つれない猫みたいで、何を考えているかわからない。でも、家で誰かと一緒にごはんを食べるのがひさしぶりだと、なんでもないようなことが、実はおざなりになっていたのだと気づく。帰ったら誰かがいる生活も意外と悪くないかもと。16歳の男の子なんて別世界の生き物かと思っていたけど、藍が仕事で理不尽なことがあって落ち込んで帰ったときには、気遣ってくれたりして。大人げなく八つ当たりをして、目の前で泣いてしまうこともあった。彼は反抗期らしい態度や素直に喜ぶ子どもっぽい一面もあるが、気づいたら急に大人びたりして藍の気持ちが追いつかなくなっていた。

 真面目で一生懸命、まっとうでしっかり者の優しいお姉さんと、ときに猫のように気まぐれでふとどこかへ行ってしまうかと思えば、ふいにぐっと距離を縮めてくる(懐に入り込んでくる?)少年に少しだけ翻弄され、癒やされていく作品だ。

『野良猫と狼』ミユキ蜜蜂(白泉社)

 『なまいきざかり。』『春の嵐とモンスター』と同じ作者の作品だ。とある遊び人バンドマン狼(ろう)のアパート前で、熱中症の症状で倒れてしまった女子高生の環。狼と一緒にいた女性が救急車を呼ぼうとするも、連絡はどこにもしてほしくないと必死で、何やらやんごとなき事情があるようだ。とりあえず避難した狼の家。彼女は東京から電車と新幹線とロープウェイで4時間半かかるところから上京し、これまで一人暮らしをしていたが、突然立ち退きをくらい、途方に暮れていたという。

  泊めてほしいという環に対し、狼は「男と同じ部屋で寝るってイミ 大丈夫?わかってる?」. と詰め寄るが、「……?食糧半分?」と答える天然?世間知らず?な環。寝床を探してうろちょろしている猫みたいで、なおかつ環(たまき)だから「タマ」と呼ばれるようになる。狼から「2、3日すきにつかえば?」と言われていたのに、いつの間にか2週間経っていて。「夏終わる前には出てけよ」と言われていたのに、「行きたい場所が見つかるまで お前のいたいところにいろよ」と言われる。環はいつまでもここにはいられないとか、はやく離れなきゃとか、どうしたいかもよくわからなくて……。でも「ここにいていいよ」って、誰かに言ってもらえるのって、嬉しいことに気づく。

  狼はここにいればこわくないと、はじめて私を見つけてくれた人。「ここにいろ」とも「どっかいけ」とも言わない、自分で決めろと言ってくれた人。野良猫少女が狼や周囲の人たちと触れ合い、嬉しいとか痛いとか苦しいとか、知らない感情をひとつずつ知って人間らしくなっていく作品だ。

  個人的には『なまいきざかり。』が完結してロスを感じていたところ、私の心の行き場、在りどころを与えてくれた作品でもある。

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