『バガボンド』『ジョジョリオン』顕彰してきた文化庁メディア芸術祭が終了へ 漫画にもたらす影響とは?

 もっとも、人気作品を取り上げ大勢のファンに喜んでもらうことだけが、文化庁メディア芸術祭の役割ではなかったことは、贈賞してきた作品の名前が表している。象徴的なのが第11回で奨励賞を受賞した白井弓子『天顕祭』だ。当時、この作品は商業出版されていなかったが、作品力の高さで同人誌として初めて入賞を果たし、受賞作品展での展示を通して商業出版へとつながった。

 白井は、この後に連載を始めた『WOMBS(ウームズ)』が第37回日本SF大賞を受賞する活躍を見せる。同人誌や自費出版、知る人ぞ知る作品がメジャー作品と同列に並べられ、新人賞のような商業性や将来性だけに限らない、さまざまな視点から審査を受ける公募方式の賞には、大きな可能性があった。今のネット状況なら自由に作品を発表できるが、そこに文化庁メディア芸術祭という、25年の歴史を重ねたブランドは乗らない。

 自費出版と言えば、『ののちゃん』のいしいひさいちが断続的に描いてきた、吉川ロカというファドのシンガーに関わるエピソードを1冊にまとめた『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』という漫画が今、世の中を騒がせている。読んだ人から上がるのは絶賛の声ばかりだが、自費出版されたこの作品をマンガ大賞に推せるのか、「このマンガがすごい!」に名前を連ねる可能性はあるのかは不明だ。文化庁メディア芸術祭なら、応募さえすれば審査を経て受賞する可能性はあったが、公募の停止はその道を閉ざした。

 第16回のブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンによる『闇の国々』の受賞も、フランスやベルギーで盛んなBD(バンドデシネ)と呼ばれる漫画の日本語版でありながら、受賞を果たしてメビウスやエンキ・ビラルと並ぶ巨匠の存在を改めて日本に知らしめた。アジアの作品も多く顕彰して、世界に開かれた窓でもあっただけに、終了を残念がる声は少なくない。

 文化庁ではポップカルチャーへの支援を止めることは考えておらず、文化庁メディア芸術祭と同様に顕彰を取りやめる文化庁映画賞や芸術祭賞も含めて、文化芸術を総合的に顕彰し、支援していくような仕組みを作ることにしているという。そちらに期待をしつつ、四半世紀という時間の積み重ねによって生まれたブランドを受け継ぎ、功成り名を遂げた人ばかりではない新しい才能を見つけ、送り出す仕組みも用意して欲しいところだ。

 アニメーション作家で作る日本アニメーション協会は、文化庁メディア芸術祭の終了がアニメーション文化の普及に損失をもたらすことを憂慮し、文化庁長官に提言を行った。漫画家の団体による動きは今のところ見られないが、次のステップをより良いものにする上で、今回が最後となる受賞作品展への反応は、ひとつの機会となるだろう。漫画のファンとして文化庁メディア芸術祭のような場が今後も必要と感じているなら、受賞作品展へと足を運んでみてはどうだろう。

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