稲川淳二が夏の季語に? 怪談から話術まで今夏読むべき名著3選

「熱帯夜 稲川淳二 2℃下がる」。7月29日朝『THE TIME,』(TBS系)で香川照之が詠んだ句である。

 当の稲川淳二が7月27日に「3、4年前に、俳句協会から稲川淳二さんが夏の季語になりましたと連絡がありました どうやら私も夏の風物詩になったようです」と自身のTwitterで発表したことを受けてのことかもしれない。

 俳句協会は多く存在し、どの教会で認定されたかどうかはまだ判然としないところがある。季語は個人の名前がなることはほぼないようだが、「季語」というものは、聴き手がその季節を感じるところに本来の意味があるのではないだろうか。

 季語を認定するのはそれぞれの教会ごとに見解があるようだが、夏の風物詩として「稲川淳二」を想起する人が多いことは、「季語」としてマジョリティには充分通用していると言えそうだ。そのことを意識した上での香川照之の一句と考えると、深みが増すのが俳句の楽しみ方でもある。稲川淳二の怪談を聞くのも良いが、読むのもまた違った怖さを感じられる。ここからはおすすめの本を紹介したい。

 『稲川怪談 昭和・平成傑作選』講談社

 2009年から始まった人気怪談番組「稲川淳二の怪談グランプリ」(関西テレビ系列)では多くの怪談師たちを世に送りだし、若手怪談師たちから「巨匠」とまで言われ、いまや「伝統芸能」とも呼ばれる「稲川怪談」だ。

 もとは自身の体験談から始まり、業界人の不思議な話、土地にまつわる噂など、時代とともに変化をさせ、ほぼ半世紀を経て完成度の高い傑作怪談となっていった。

 開拓者として怪談ブームの礎を作り、500以上にのぼる「稲川怪談」の中から選りすぐりの40作品を定本としてまとめたものが本作である。

 伝統とはその場にとどまることなく、常に時代に合わせて変化をさせたからこそ「伝統」となる。伝統とは常に進化することが肝要であると感ずる「稲川怪談」の集大成本だ。

『真説 稲川淳二のすご~く恐い話 事故物件』 リイド社

 リイド社の人気シリーズ「真説 稲川淳二のすご〜く怖い話」の最新作となる怪談集第8弾。表紙はすべて稲川淳二ワールド全開。怪談同様、一度見たら忘れられない表紙からしてドキドキの全開である。

 久保さんが振り返った。途端、(ううっ!?) 女性が凄まじい形相で自分を睨み付けていたんで、びっくりした。と、表情が戻って、「どうも、ご面倒をおかけしました。ありがとうございました」と、頭を下げたんで、「あっ、いいえ。…じゃ、お休みなさい」と、言って、自分の部屋に帰ったんですが……。

 最新の怪談は、事故物件。「稲川淳二の怪談グランプリ」の2019年のイベントで事故物件住みます芸人としても知られる松原タニシとのトークショーでは、「霊って耳で感じてるんです」と名言を残していたが、わけあり物件は稲川淳二の名怪談のひとつでもある。価格は税込693円。この値段で充分楽しめるコスパの良い作品だ。

『稲川淳二の恐いほど人の心をつかむ話し方 心に残る、響く、愛されるための38の方法』 ユサブル

 最後は怪談ではないのだが。稲川淳二の怪談の魅力は、やはり聴衆を惹きつける彼の話術に他ならない。夏の風物詩でもあるトークイベント「怪談ナイト」はプロのアナウンサーもその技術を学びに来るほどだ。

 若い読者は知らない人も多いと思うが、稲川淳二は深夜ラジオや芸能リポーターとして活躍をしていた時期がある。その時のトークといえば派手さはないが、どんどんと気づかないうちに徐々にペースにはめられていく。そんな凄みがある。気難しくて有名だった岡本太郎を歌って踊らせた逸話をもつコミュニケーションスキルは見事。生き馬の目を抜く芸能界でずっと活躍を続けてこられたことの証左と言えよう。

 そんな人の心を鷲掴みにしてしまうのが稲川流のコミュニケーション術をまとめたのが本書だ。スピーチやプレゼンにも有用でビジネスにも活用できるだろう。口下手な人にもあがってしまう人、会話術の本を読んでも中々コミュニケーションをとるのがうまくならなかった人必見の1冊である。

 毎年行われてきた稲川淳二の怪談ナイトは今年で30周年。メモリアルイヤーでもある稲川淳二の怪談や人の心を掴むトーク術を、今夏じっくりと読んでみてはいかがだろう。

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