すれ違いの夫、カフェのイケメンマスター……人生の最期は誰と過ごす? 注目のwebtoon『最期の夜はあなたと』作者インタビュー

 結婚生活5年目。夫とのすれ違いも増えてきた専業主婦の穂乃果は、ある日定期検診で子宮頸がんと診断される。悲しみにくれる彼女の前に現れたのは、優しさ溢れるカフェのマスターだったーー。

 そう遠くない未来に訪れる“人生の最期”を誰と過ごすのか。LINEマンガで好評連載中のwebtoon『最期の夜はあなたと』は、突如がん宣告された一人の主婦が、残りの人生を悔いなく生きようとする姿を描いた作品だ。

 死を意識した主人公の前には、心がすれ違っていくモラハラ気質の夫と、辛い過去を持つ心優しいカフェのマスター。「こういう人いるよね」と思わせるようなリアルなキャラクター描写と、最後まで物語がどう転ぶのか分からないドキドキ感がたまらない。

 今回は、作者・なつまろ。先生と担当編集・坂井優太氏へのインタビューを実施。本作に込めた思いや見どころについて伺った。

 なお、LINEマンガ公式ブログでは、いま加速度的に注目が高まっている「webtoon」の描き方や読者を惹きつけるポイントについての対談が展開されている。マンガ文化の最前線を知るためにも、ぜひ合わせてチェックしていただきたい。

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■なつまろ。
マンガ家。代表作に、めちゃコミ『天宮社長は甘く優しく』 、LINEマンガ『あなたの愛が、毒だとしても。』など。現在『最期の夜はあなたと』を連載中。 https://twitter.com/natsumaro_

■坂井優太
LINEマンガ編集者。担当作に『花びらとナイフ』『セミ≠ダブル』『決刀裁判』『最期の夜はあなたと』など。

「幸せな生き方とは何なのか」という問い

――本作を描くことになった経緯を教えてください。

なつまろ。:どんなに若くて健康でも、人はいつどんな形で死を迎えるか分からない。だから、毎日を悔いなく大事に生きていきたいという思いがずっとあったんです。それで、「幸せな生き方とは何なのか」とよく考えていたのですが、ちょうど次回作の構想を練っている時にこの問いを思い出して「これだ!」と閃きました。


 主人公の穂乃果は、夫とすれ違ったり、突然がん宣告をされるなど、どん底の状態から始まります。ですが、どん底だからこそ見えてくる人の本性や本音があると思うんです。そこから生まれる人間ドラマを描いていきたいです。

坂井:夫のヒロくん=弘之は本当に普通の人なのですが、悪気はなくても少し気を使えないところがあって、よかれと思った言動で、穂乃果をとても傷つけてしまう。こうしたすれ違いは日常生活のどこにでも転がっているような気がして、編集を担当しながら、「自分も気をつけよう」と考えさせられるんです。日常にあふれている、些細だけれど切実な問題を拾い上げることも、今作のテーマになっていると思います。

表情の描写は“全てを見せない”ことがポイント

――容赦なく襲い掛かる悲しい出来事に胸を痛めるシーンでは、穂乃果の表情の描写が繊細で引き込まれます。工夫されている点はありますか?

なつまろ。:あえて目元や口元を隠したり、後ろから描いてみたり……。全てを見せないようにすることで、読者さんにその時の感情を想像してもらうようにしていて。特にインパクトを与えたいシーンは、泣いたり、驚いたり、悲しんでいる表情をガッツリと描くようにしています。

ーー自宅や病院、カフェなど、背景の描写がとても細やかで、それも作品のリアリティにつながっていると感じました。

なつまろ。:そうですね。例えば自宅やカフェなら、3Dで空間を構築できる建築系のソフトを使って、自分で簡単な間取りを作って家具を配置して立体化していて、背景がリアルに構築できている分、それに人物が負けないようにしないといけないな、と考えています。

坂井:カフェも重要なシーンが多いので、実際に雰囲気のある喫茶店に取材に行って、店内を撮影させていただきました。

ーー穂乃果がアルバイトを始め、マスターと交流を深めるカフェは、確かに重要な場ですね。落ち着いた大人の空間、という感じで、近所にこんなお店があればいいのに、と思いました。こちらも建築ソフトで空間を作られているということで、なかなか切り取られないアングルのシーンがあるのも印象的です。

坂井:そうですね。1から描くというより、カメラアングルを決めて撮影する、という形に近い方法で制作されているシーンもあるので、そのあたりにもリアリティを感じていただけると思います。

――描くのに苦労したシーンを教えてください。

なつまろ。:やっぱり穂乃果の術後の心情を描くシーンでしょうか。病状自体もそうですが、子どもが産めなくなってしまう……という、とてもセンシティブで、しかし女性なら他人事ではない問題を描いているので、とても辛かったです。

 あとは、マスターの過去の回想シーン。“大人の男性の魅力”をどのように表現すればよいのか常に悩みながら描いています。男性はつらいときどんな風に泣くのか、どうやったら深い悲しみが伝わるのか、いうこともじっくり考えながら描きました。

「譲れないものを大切にして」本作に込めた思い

――つらい展開が多い作品ですが、本作に込めた思いや伝えたいメッセージを教えてください。

なつまろ。:人はいつ人生の終わりを迎えるのか分からない。諦めたり、妥協してしまうこともあると思いますが、人生の最期の瞬間に悔いが残らないように、譲れないものを大切にして、日々を過ごしてほしいですね。

ーー各話のコメント欄で、活発な議論が行われているのも本作の特徴だと思います。

坂井:そうですね。ヒロくんのことが許せないという方もいれば、同情的な方もいますし、それぞれの立場や考え方で見え方が違って、さまざまな意見をいただけるのは好ましいことだと考えています。今後“ヒロくん派”と“マスター派”に分かれるような展開も考えられますし、感想を語り合う、ということもセットで楽しんでいただけたらうれしいですね。

――今後、本作のどんなところに注目してほしいですか?

なつまろ。:穂乃果とマスターの今後の関係性。そして、余命宣告を受けた穂乃果がどんな決断をして、人生の最期を誰とどう過ごすのかに注目してほしいです。1話で多くの方からコメントいただきましたが、穂乃果の遺影を抱えているのは誰なのか…?ぜひ最後まで見ていただきたいです。

坂井:申し上げたように、さまざまなテーマを設定して制作している作品ではありますが、どこまで行ってもマンガはエンタメコンテンツですから、とにかくハラハラして楽しんでいただくのが一番だと考えています。その先に、死期を悟った人はどのような行動を起こすのか、自分はどう生きていくか……と、いろんなことを感じていただければなおうれしいですね。

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