異色のベストセラー『つけびの村』著者があぶり出す“禁断のスリル” 「逃走犯たちのリアル」に迫る

 裁判傍聴を軸に執筆活動をする気鋭のライター・髙橋ユキの最新刊『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』が話題を呼んでいる。

  テーマは「脱走」。 自転車全国一周に扮した富田林署逃走犯、尾道水道を泳いで渡った松山刑務所逃走犯、『ゴールデンカムイ』のモデルとなった昭和の脱獄王、楽器ケースに身を潜め日本を出たカルロス・ゴーン……彼らはなぜ逃げたのか、そして、なぜ逃げられたのか。

 山口連続殺人放火事件を「村人たちの噂」という斬新な視点から見つめ直した『つけびの村』で脚光を浴びた著者が、逃げるものたちの実態に迫る。

  警察に一度は捕まりながら、脱走に成功してしまったものたちの告白や足跡は、読む側に〝禁断のスリル〟をもたらすはずだ。

本書「はじめに」より

「ドラマや映画のなかでは、殺人事件がたびたび起こる。そして世のなかは架空の事件や犯罪を、なんの抵抗もなくコンテンツとして受け取り、楽しんでいる。
 私は普段、殺人を犯した人への面会や文通取材、または裁判傍聴を通じて、彼らの話を聞いているが、そのたびに実態と物語との違いやズレを感じる。これが物語ならば、どんなにいいかと思うこともあるし、ドラマのような劇的な展開がなかったりもする。しかし、どちらも「真実」なのである。
 本書は、実際に国内で脱獄、逃走した被疑者や受刑者らの手記を得る取材を行ったことがきっかけとなり、彼らの潜伏していた街の取材などを行った記録である。」

 本書収録の小説家・道尾秀介との対談抜粋

著者・髙橋ユキ(左)と犯罪小説の名手・道尾秀介(右)

「道尾 しかし、今回読ませていただいたこの本(『逃げるが勝ち』)の「リアル」は、「物語」がないどころか、めちゃくちゃ面白くてビックリしました。この本を読んだ人みんなが感じると思うんですけど、もしも小説で書いたら、読者の怒りを買いそうな出来事がたくさん出てくるじゃないですか。「なんだ、こんなリアリティのないものを書きやがって」と、クレームをつけられるような。
高橋 えっ!
道尾 例えば、大阪の警察署(富田林署)から脱走して、自転車で日本一周しようとした逃走犯は、その道中、職務質問までされたのに、どうしてバレずに逮捕もされなかったのか。本書に書かれている「リアルな理由」を、もし僕が小説で書いたなら、編集者とか校閲さんから赤字が入ると思います。「いくらなんでも警察が間抜けすぎでは?」とか。
高橋 でも現実には、いるんですよねえ。
道尾 「リアル」と「リアリティ」の違いは、本当に面白い。小説であまりに「リアル」を書いちゃうと、「リアリティ」を確保できないという。
高橋 ミステリー小説の場合は、登場人物たちのスペックが高いですよね。基本的には、犯人も警察もみんな真面目で頭がいい。
道尾 そうじゃないとトリックを仕掛けられないし、謎も解けなくなっちゃいます。
高橋 私も取材を始めたばかりの頃にはドラマチックな話を予想して現地に入りましたが、ぜんぜん違いました。ときにはプッと噴き出してしまうような、ドタバタ劇でしたね。
道尾 塀のない刑務所(松山刑務所大井造船作業場)から逃げ出し、島に潜伏した後、海を泳いで渡った逃走犯。読み終えたとき、実は泣いちゃったんですよ。もう本当に、取材力に感動しました。彼が潜伏していた町の人々が、ぜんぜん怖がっていないどころか、「あの子、どうしているかしら」と懐かしく振り返る。当時の報道だと、のどかな島を恐怖に陥れた脱走犯として描かれているわけですよね。こんな状況は、逆立ちしても小説家の頭からは出てきません。」
(本文より)

目次

序章 暗がりに目を向ける――小説家・道尾秀介との対話
第1章 丁寧すぎる犯行手記――松山刑務所逃走犯
第2章 めっちゃ似とる――松山刑務所逃走犯
第3章 自転車で日本一周――富田林署逃走犯
第4章 手記を得る――富田林署逃走犯
第5章 最強の男――白鳥由栄の逃走
第6章 必ず壊せる――白鳥由栄の逃走
終章 逃げるが勝ち?

書籍情報

小学館新書
『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』
著/高橋ユキ 
定価:946円(税込)
判型/頁:新書判/216頁
ISBN978-4-09-825425-5
小学館より発売中(6/1発売)
本書の紹介ページ
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825425

著者プロフィール

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
1974年、福岡県生まれ。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。

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