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古川日出男『平家物語 犬王の巻』(河出文庫)

〈こういうことのすべてを包括し包摂するのがこのわずか二百ページの小説である〉と巻末に収録された池澤夏樹の解説文はしめくくられる。〈こういうこと〉とは何か、ここで書くことは避けるが、短いセンテンスを重ねながら進むわずか二百ページの裏側に、これほど奥深く豊かな世界が広がるものかと、ただただ圧倒される一冊である。

 時は三代将軍足利義満が南北朝の統一をめざす室町初期。壇ノ浦に生まれた漁師の息子・友魚(ともな)は、源平の合戦で海に沈んだ三種の神器のうちのひとつ、天叢雲剣をひきあげるよう、依頼される。ところがその剣を目にした父は、胴をまっぷたつに断たれて死亡。友魚は目を切られて視力を失った。亡霊となった父の声に導かれ、事の発端となった平家の物語を集める旅に出た友魚は、道中、琵琶法師に弟子入りし、京の都で、少年とも呼べぬ異形ななりをした犬王に出会う。猿楽の一座である比叡座に生まれた犬王は、生まれたときから呪いを受け、平家の亡霊とともに舞うたび、異形の体を正常に戻していく。やがて二人は世の人々の魂に訴えかける芸を披露するようになるのだけれど……。

 5月に公開されたアニメ映画は、二人の芸をミュージカル調に描き出しているが、原作である本作もまた不思議と、読むだけで“音”が聴こえてくる。文章の語りがすでに音楽であり、歌なのだ。奏でられるのは、この世に生れ落ちるということは、かつて生きた人たちの怨念を背負いながら生き続けねばならないのだという悲しみ。理不尽。けれど、たとえ自分も呪詛を放つ一人になってしまったとしても、この世から光が失われるわけではないのだという希望。そのために、美しき芸はあり、それを成す人たちの才がある。ぜひ原作とアニメ、あわせてこの“音”を堪能してほしい。

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