転生者×タイムトラベラー!? トリッキーな設定に見えて真摯に「人生」と向き合う、良質なSF漫画『雪と墨』

歳をとらないタイムトラベラー、浅葱

 一方の浅葱はというと、24歳のまま歳をとらない。誕生日を起点に200回以上タイムトラベルして生きており、実はけっこうなおじいさんらしい。どの時代に飛んでも姿かたちは変わらないが、タイムトラベルにはいくつも条件があり、好きな時代を自由に移動することはできない。同じ年には二度と戻ることはできず、基本的には別れを繰り返すが、前後の年ならリスクを伴いながらも数回行くことができる。それがただの体質なのか、なにかやるべきことがあるのかすらわからない。勝手に人生を振り回され、周囲の捏造された記憶のなかで生きるとはどのような気持ちなのだろうか。そして、そのタイムトラベラーの言う「終わり」とは……。

 「転生者」×「タイムトラベラー」という派手なイメージから一転、二人が置かれた境遇を見ると、暗闇の中を進むような、ズンと重い物語のようにも感じてしまうかもしれない。しかし、浅葱(あっくんと呼ばれている)はユーモアと愛嬌があり、料理上手。常盤(トッキ―と呼ばれている)はモデルのようにかっこよく紳士的で、2人の掛け合いにはクスクスと笑ってしまうような日常シーンも多い。涙なしには読めない展開と、ほのぼのした展開が織りなす絶妙なバランスで、ついつい次のページへと手が伸びてしまうのだ。

 相対化された「時間」のなかで、それぞれに懸命に生きている二人。この物語の先に、どんな結末が待ち受けているのか。さまざまな要素が複雑に絡み合う重厚なストーリーを引き続き楽しみたいと思う。


『雪と墨』ジーンピクシブシリーズ1~2巻
作者:Marita
出版社:KADOKAWA


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