松本大洋らが絶賛する漫画『ひらやすみ』の魅力とは? どこか懐かしい作風を考察

 「マンガ大賞2022」の第3位に選ばれた『ひらやすみ』。『東京ヒゴロ』を手掛けた松本大洋やお笑い芸人の阿佐ヶ谷姉妹など、数多くの作家が推薦コメントを書いたことでも話題となった作品だ。

 「輝け!ブロスコミックアワード2021」の大賞に選ばれ「THE BEST MANGA 2022 このマンガを読め!」にランクインするなど、2021年に「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載を開始した本作は早くも数多くの評価を得ている。『ノラと雑草』などの作品で知られる真造圭伍氏の手掛ける本作の魅力はどんな点にあるのだろうか。

現代の日本に似た世界で暮らすヒロトの姿

 役者を目指し山形から上京したものの夢は諦め、ちかくの釣り堀でアルバイトをしながら平屋で暮らす「生田ヒロト」。彼のいとこであり大学進学を機に上京してきた「小林なつみ」はヒロトの暮らす平屋に住むこととなる。

 ヒロトの同級生である「野口ヒデキ」や不動産会社で働く「立花よもぎ」など、東京の阿佐ヶ谷を舞台にヒロトと彼に集まる人々の日常が描かれる。

 役者としての活躍を目指していたヒロトも含め、夢の実現や幸せを求めて多くの人が集まる東京。高層ビルが立ち並ぶ点も踏まえると、1巻「1日目/ヒロトとなつみ」で幸せについてあまり考えたことがないと話したり、平屋に住んでいる点など、ヒロトは一般的な東京のイメージとは対照的な存在として描かれる。

 自身の夢を実現することや高層マンションに住むことは、現代の日本において成功の証として用いられることが多いだろう。また1巻「2日目/友達100人なんていらないよ」で定職に就き結婚をしているヒデキに対しヒロトが「スゴイなぁ」と口にしたり、ナレーションで「ココで普通の人ならこう思ったりする。」と語られたりなどー-。本作においても一般的な“普通”の感覚は感じ取れる。

 現代の日本における“幸せ”や“普通”の基準を匂わせる世界を舞台に、アルバイトで生計を立てながら楽しそうに暮らすヒロトの姿は人生における幸せとは何かと考えさせてくれる。

 大学デビューを目指すも友人関係に悩むなつみや、楽しそうに暮らすヒロトを見て泣きながら怒りをあらわにするよもぎ。彼女たちのように少し不器用な一面をもつキャラクターの存在もあいまって、失敗や挫折が続く人にとって居心地の良さも感じながら、自分にとっての幸せを考えられる作品となるはずだ。

関連記事