『SLAM DUNK』清田信長の熱い“エール”が物語を盛り上げる 「No.1ルーキー」の感動的な姿を考察

※本稿には『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。また、本文中で表記している単行本の巻数は、ジャンプ・コミックス版のものです。(筆者)

 今秋公開予定のアニメ映画『SLAM DUNK』。正式なタイトルや、どういうストーリーになるかなど、詳細はまだ不明だが、原作者の井上雄彦自ら監督と脚本を務めるということで、ファンの間では日に日に期待が高まっているところだ。

 さて、そんな『SLAM DUNK』だが、主人公・桜木花道が所属する湘北高校バスケットボール部の面々だけでなく、彼らのライバルである他校の選手たちもまた、強烈な個性の持ち主ばかりであるということをファンならすでにご存じだろう。仙道彰、魚住純、牧紳一、神宗一郎、藤真健司、河田雅史、沢北栄治……などなど、作中に出てくるすべてのライバルキャラの名を挙げたいくらいだが、今回は、海南大附属高校の清田信長を採り上げたい。

先輩たちへのリスペクトの態度が胸を打つ

 清田信長は、強豪・海南大附属高校バスケットボール部の1年生である。身長は178cm。『SLAM DUNK』に登場するバスケ選手の中では決して高い身長だとはいえないが、得意技は派手なダンクシュートであり、実際、作中で描かれている彼の得点シーンのほとんどはダンクである(特に、綾南戦において、巨漢・魚住の上からダンクを決めるシーンは圧巻だ)。

 その一方で、“基本”もしっかりしているというか、ディフェンス面での能力も高く、たとえば湘北戦では、最後の最後で三井寿が放った会心の3Pシュートを、わずかに爪の先で触れて、コースを逸らすことに成功した(このプレイが間接的に、海南大附属の勝利につながっていく)。

 また、目立ちたがり屋、すぐに悪態をつく、同学年の流川楓を何かと意識している、自分を大きく見せたがる(自称「No.1ルーキー」)など、桜木花道との共通点も少なくない(良い面でいえば、身体能力が高い、1年生ながらスタメン、最後まで諦めない、といった部分が似ているだろうか)。そういう意味では、作者はこの清田信長を、主人公と対になるような存在のキャラとして設定したのかもしれない。

 ただし、桜木と大きく違う点がひとつだけある。それは、先輩たちへのリスペクトの態度だ(もちろん、桜木も、心の底では先輩たちのことを尊敬しているのだが、信長のように表立ってそれを態度で示すことはほとんどない)。

 そう、『SLAM DUNK』を流し読みしただけではちょっとわかりにくいかもしれないが、繰り返しよく読み込んでみれば、要所要所で、この信長が先輩たちに見せる態度が、作品を盛り上げるうえでじわじわと“効いて”いることがわかるだろう。

 「あいつなんか たいしたことないすからね 宮さん!」(第12巻所収・第105話)

 「ナイッシュウ 宮さん!! 」(同・第106話)

 「やったあ 牧さん!!」(第14巻所収・第118話)

 「神さん ナイス!! 3Pの天才!!」(同・第120話)

 このように、試合中、ことあるごとに、信長は同じチームの先輩たちに声をかけ続けているのだ。特に、試合経験の少ない「宮さん」――宮益義範に対する「エール」は、感動的であるとさえいえるだろう。

 また、「信長のエール」といえば、それは、同じチームの選手たちに向けられたものだけではない。

本気でぶつかり合った者同士ならではの清々しい関係

 物語を通しての最大の山場ともいうべき、インターハイにおける湘北高校対山王工業の試合。それを観客席から観ている信長の姿が、なんともいえず、“いい”のである。

 たとえば、試合の序盤では、「笑わすなよ 赤毛ザル!! てめーにゃ 100万年はえーぜ!!」(第25巻所収・第224話)だとか、「かっかっかっかっ さすが“神奈川の退場王”!!」(第26巻所収・第229話)などといって、(主に桜木に向かって)何かとヤジを飛ばしているのだが、徐々に試合が白熱してくるやいなや、その場にいる他の海南大附属のチームメイトたちと一丸になって、心から湘北チームを応援し出すのだ。

 「コラァ―――ッ このまま引き下がるのか 流川!! 何とかしてみろ 赤毛猿!!」(第29巻所収・第256話)

 「死んでも 守り切れ――っ!! おめーらぁ!!」(第31巻所収・第272 話)

 山王戦といえば、試合の後半、相手選手(河田)の存在感に圧倒されていた湘北キャプテンの赤木剛憲に、かつてのライバル・魚住が“喝”を入れる場面もなかなか“いい”のだが、私はやはり、この信長の「エール」の数々に注目したい。

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