「好きなことで生きていく」の光と影ーー『ブルーピリオド』『その着せ替え人形は恋をする』『着たい服がある』が描くもの

 「好きなことで生きていく」「好きを仕事に」......。数年前からあらゆるシーンで提唱され、肯定的に捉えられてきたいわゆる「好き」を極める生き方。口で言うだけなら簡単だが、その分多くの葛藤や難しさもあるだろうし、そもそも極めずとも自分のペースで趣味として楽しむことだってできる。そう考えると、この「好き」を極める生き方を全面的に肯定して良いものか少々疑問が浮かぶ。

 『ブルーピリオド』『その着せ替え人形は恋をする』『着たい服がある』といった最近のヒット漫画では、それぞれの主人公が心の奥底に抱く「好き」という情熱が物語の重要なキーとなっていたが、彼ら彼女たちは自分の「好き」に対してどのように向き合い、関わっていったのだろうか。

周囲に導かれて「好き」の道をひた走る

 『ブルーピリオド』(山口つばさ)の主人公・八虎は、ある日美術室で見た一枚の絵に心を奪われ、初心者ながら美しくも厳しい美術の世界へと身を投じていくことになる。勉強もスポーツも交友関係も何でも器用にやり過ごしてきた八虎。そんな彼が好きなことに本気で向き合う悦びを感じる一方で、こんな葛藤を抱えるようになる。

「好きなことをやるって いつでも楽しいって意味じゃないよ」(ブルーピリオド3巻より)

 自己表現、そして他人からの評価が付きまとう美術の世界でもがく八虎だが、傷つきながらも自分を貫こうとする同級生の鮎ちゃんや、天才的な才能を持ちながら心の奥底で苦悩している予備校生たち、そして恩師に導かれて「好き」の道へとひた走る。どちらかといえば八虎も「好き」を極める生き方をしていると言えるだろう。だが、一人で極めるのではなく、周囲を巻き込み、時に頼り、頼られながら「好き」との結びつきをより強固なものにしていく姿が印象的だ。

誰かと「好き」を共有する

 『その着せ替え人形は恋をする』(福田晋一)の主人公は、雛人形の顔を作る頭師を目指し、人知れず制作に没頭し続ける男子高校生の新菜。幼い頃に、頭師であった祖父の作る雛人形に憧れて以来、 自分のペースで黙々と「好き」に熱中する新菜だったが、ひょんなことからクラスメイトのギャル・海夢と接点を持つようになる。

 普段の姿からは想像も付かないオタク趣味を持ち、コスプレが大好きな海夢。そんな彼女は頭師の修行の一環で、新菜がミシンを使って服を作れることを知り、コスプレの衣装を作ってほしいと頼み込む。コスプレが大好きなギャルと、雛人形が大好きな男子高校生。一見すると相容れることがなさそうな2人だが、海夢のコスプレの衣装作りを通して、やがてお互いの「好き」を共有しリスペクトし合える唯一無二の関係となる。

 それぞれ「好き」なモノは全く違うけれど、自分の「好き」を貫き、お互いにポジティブな化学反応を起こしていく2人の姿はとても眩しい。特に、今まで雛人形一色だった新菜が自分の「好き」を誰かに開示することで、新たな交友関係を育んだり、初めて恋愛感情を抱くようになったりと、「好き」をきっかけに世界を広げていく姿は魅力的だ。

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