『SLAM DUNK』なぜ県予選準々決勝の相手は翔陽だった? 物語上の必然性を考察

 県内ナンバー1プレイヤー・牧紳一のライバルである藤真健司、そして県内屈指のセンターであり、テクニックも兼ねそろえたスター選手・花形透を擁する強豪校・翔陽高校。『SLAM DUNK』の主人公・桜木花道が所属する湘北高校は、インターハイ県予選において、海南大付属と肩を並べるこの強敵と、4校による決勝リーグではなく、準々決勝で激突した。

 翔陽は準々決勝で対戦するには惜しいほど、魅力的なチームである。しかし物語を俯瞰してみると、決勝リーグではなく準々決勝で当たる意義はとても大きい。本稿では、この翔陽戦で描かれたものについて考察したい。

初めて経験する“格上”のプレッシャー

 準々決勝までは危なげなく勝ち上がってきた湘北。作中において、翔陽は公式戦で湘北が初めて対戦する明らかに「格上」のチームである。強豪校が持つネームバリュー、強豪校特有の大規模な応援団、そして、190センチ越えの長身選手がずらりと並ぶ圧倒的な雰囲気。これらの要因から、湘北は序盤からこれまでにない緊張感に襲われ、思うようにリズムに乗れなかった。

 湘北はその後、海南大付属や山王工業といった強豪校と対戦するが、強者と対峙する際のプレッシャーをここで経験したことが、後の試合の説得力に大きく寄与していることがわかる。海南大付属相手との対戦で初めて格上チームに挑むとあっては、接戦のリアリティは生まれ辛く、あれほどドラマチックな展開は望めなかっただろう。決勝リーグ前に「翔陽に勝った自信」を選手に持たせることは、物語上必要なことだったと思う。

“身長差”というハンデを受け入れる

 バスケは他のスポーツ以上に体格がものをいう場面が多く、勝ち進めば「高さ」という壁に当たることは明白だ。身長190cm超えが赤木(197cm)のみの湘北にとって、その壁を早い段階で経験することは極めて重要だった。

 とりわけ、攻撃の起点となる宮城リョータは身長168cmと、バスケットボール選手としては小柄だといえる。スピードやテクニックは優れているものの、いかに高い能力があっても“身長差“は大きなハンディキャップになり得るのだ。

 実際、翔陽戦のスタメンガードで、身長180cmの伊藤卓とマッチアップした宮城は、その高さに序盤から苦しめられる。伊藤は2年生にもかかわらず、藤真に認められる逸材だ。そんな伊藤を相手に、宮城は自分の持ち味を模索し、輝くプレーも見せるようになる。

 さらなる激戦が描かれる決勝リーグから、その先のインターハイを見据えたとき、ゲームメーカーとなるポイントガードを務める宮城が「身長差」という覆しようのない壁に阻まれていては、好試合になりようがない。翔陽戦において、宮城が自分にないもの、自分だけが持っているものをあらためて見出したことが、結果として、牧や山王工業・深津一成といったトップ選手に食らいつき、強豪校との善戦に説得力をもたらしたといえるだろう。

三井寿の実力と弱点を浮き彫りに

 宮城と同様に、翔陽戦で強みと弱みが明確になったのが、三井寿だ。中学時代に輝かしい活躍で全国に名をとどろかせた選手でありながら、ブランクもあって、この試合まではいまいち活躍するシーンが見られなかった三井。その真価を示したのが翔陽戦であり、その上で弱点がしっかり示されたのも、その後の展開において非常に大きかったと思う。

 前半の20分間、三井は翔陽・長谷川一志のマークに苦しみ、5得点に抑えられる。後半もなかなかリズムに乗れなかったが、次第にギアを上げ、得意の3Pシュートが打てば入るという覚醒状態に。湘北高校に、全国と戦うための新たな武器が生まれた瞬間だ。

 しかし、後半途中から藤真が加入したことにより、試合のテンポが上がると三井の“スタミナ不足“という弱点が露呈する。その高い能力とともに、「三井に打たせる」という選択肢が万能ではないことがしっかり示されており、その後の試合でも緊張感は失われなかった。

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