原作・劉慈欣、翻訳・池澤春菜、絵・西村ツチカによる物語絵本 『火守』が感じさせる愛おしさ

 特異な設定をポンと投げかけてきて、だからこそ起こりえる状況を見せた上で、教訓になるようなオチをつける構成は、小栗旬主演によるドラマが話題になった『日本沈没』や映画化された『復活の日』といった小松左京の作品群に重なるところがあるし、星新一のショートショートとも似た味わいがある。劉慈欣の作品にどことなく懐かしさを感じる所以かもしれない。

 表題作の『円』がまた壮絶で、始皇帝で有名な秦の時代を舞台に、白髪三千丈といった具合に何事も大げさに言いたがるお国柄を映したような状況が繰り広げられる。何についてかは読んでもらうとして、なるほどその手があったかと驚かされること請け負いだ。その仕掛けは『三体』でも使われているというから、シリーズを読んだ人はどのようにアレンジされているかを確かめてみよう。

 3部作で単行本5冊に及ぶ『三体』に臆する人が、劉慈欣であり華文SFへと入っていく上で、『火守』のような童話であり、短いストーリーを楽しめて驚きも得られる『円 劉慈欣短編集』は絶好の入り口になりそうだ。

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