『ブランクスペース』は思春期の空白をどのように表現した? 対照的なふたりの少女の関係性

空白から生まれる感情の見えづらさ

 思春期に抱く孤独をお互いに強調させる構図で描いた本作。ただショーコと比較すると、スイが自身の感情を口にする姿やモノローグを用いて心の声が語られるシーンは非常に少ない。

 下駄箱にゴミが詰められたり、飲みかけのジュースを机のなかに入れられたり。教室でささやかれる自分への陰口を耳にして、靴で踏まれた自分の本を目にする。数多くの嫌がらせを受けるなかスイは自身で怒りに蓋をしようとする。故に、傍から見るとスイは学校生活を淡々と送っているように見えてしまう。

 しかしスイの感情がある定点に達したとき、スイは自身がつくり出した透明なフライパンで缶ジュースを叩き潰したり、透明な銃で体育館の窓ガラスやクラスメイトが持つぬいぐるみを貫き「クソが」と口にする。言葉では表現されないスイの怒りは、突如目に見える形として明らかになるのだ。

 思春期が多感な時期だということは多くの大人が実体験を通じて認識する事実であろう。しかし感情の変化やそのグラデーションを大人が感じることは非常にむずかしい。そのため怒りや哀しみが目に見える形で表れたときに、抱えていた孤独をはじめて知ることも多いはず。

 本作は目に見えない心の穴を対照的な存在によって輪郭が際立つように描いた。しかし強調して描かれた思春期の空白は、本来いかに目に見えづらいものであるかとも教えてくれる。

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