新興宗教を描く小説が増えている? 時代の空気が反映された文芸書週間ベストセラー

 9位は川村元気の2年半ぶりの新作『神曲』。無差別の通り魔事件で幼い息子を殺されてしまった家族が、救いを求めて新興宗教に入信していく過程を描いた作品である。タイトルからもとおり、ダンテの『神曲』へのオマージュでもあり、地獄篇・煉獄篇・天国篇に重なる三部構成になっていて、とくに娘の視点を通じて「神を信じること」と「信じないこと」の間で揺らぐ人の弱さと強さを繊細に描きだしている。

 新興宗教といえば、今年11月には誉田哲也も『フェイクフィクション』というカルト教団を舞台にした小説を刊行している。さかのぼれば、8月には『ぼぎわんが来る』の澤村伊智が『邪教の子』を、6月には辻村深月が『琥珀の夏』を刊行しており、そのどちらも閉ざされた世界で、世間とは異なる価値観を信じ続ける人々を描いた作品だった。ちなみに、最終回を目前に迎える秋元康プロデュースドラマ『真犯人フラグ』でも、新興宗教とおぼしき存在が事件の裏に見え隠れしている。

 示し合わせたわけでもないのに、時代を象徴する作家たちが、同じテーマ――新興宗教をとりあげるのには、なにか意味があるような気がしてならない。コロナ禍で、努力だけではどうにもならない、理不尽に襲いかかってくる不運や不幸をまのあたりにして、何を信じればよいのかわからなくなった人も少なくないだろうが、彼らが作品を準備し始めたのはおそらくそれよりもずっと前。自分は何を信じて生きていけばいいのか。何を信じたいと願うのか。小説を読みながら、一年の締めくくりに、改めて見つめ直すのもいいかもしれない。

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