『鬼滅の刃』遊郭編の最大の見どころは? 根底に流れる主題から考察
人間であることを誇りに思う、宇髄天元の熱い言葉
たしかに「無限列車編」でも、“炎柱”煉󠄁獄杏寿郎が、宿敵・猗窩座を相手に計り知れない“人間の底力”を見せてくれた。「老いることも死ぬことも 人間という儚い生き物の美しさだ(中略)俺は 如何なる理由があろうとも 鬼にならない」(第63話より)
だが、この煉󠄁獄のまっすぐな想いは、「遊郭編」の実質的な主人公である宇髄天元の「ド派手な」生きざまにも通じる部分があり、何度でも立ち上がる彼のタフな姿は、部下の炭治郎たちの心に熱い火を灯す。
たとえば、上弦の陸との戦いの最中、敵の毒にやられ、瀕死の重傷を負いながらも、天元はこんな啖呵を切る。「余裕で勝つわ ボケ雑魚がァ!! 毒回ってるくらいの 足枷あってトントンなんだよ 人間様を舐めんじゃねぇ!!」(第88話より)
そしてそんな“音柱”の勇ましい姿に、炭治郎は、かつて「心を燃やせ」と言って散華した“炎柱”の幻影を重ね合わせるのだった……。
いずれにせよ、ここで天元が言った「人間様を舐めんじゃねぇ!!」という力強い言葉こそ、吾峠呼世晴が初期作品から一貫して描き続けているテーマそのものだと言ってよく、こうした想いを抱き続けられる限り、人は鬼にならずにすむだろう。また、この「遊郭編」では、襧豆子の鬼化がもっとも進行してしまう場面もあるのだが、結果的に彼女を人間側に引き戻したのは、妹のことを想い、兄が歌った、懐かしい母の子守り唄であった。
そう――繰り返しになるが、人間と怪物との違いとは、誰かを守りたいと思う、“人の心”があるかないかなのだ。