『東京ヒゴロ』松本大洋が描いた情熱 漫画編集者にとっての財産とは?

 ちなみにこの『東京ヒゴロ』、その回だけでなく、毎回1ページ大の東京の風景の画(え)が、必ずラストに入る。それらはもちろん、主人公(たち)の心象風景でもあるのだろうが(実際、悲しい回の時は街に雨が降り、ポジティブな回の時はビルの上に満天の星空が輝いている)、この東京の街並の画が本当に美しい。

 本来なら、松本大洋が描くような、フリーハンドの線による歪んだ風景の画は、読み手に不安感を抱かせるもののはずだ。だが、本作に限らず、『鉄コン筋クリート』にせよ、『ピンポン』にせよ、松本が描く世界(風景)は、どこか優しくてあたたかい。

 それはなぜかといえば、魚眼レンズで覗いたような歪んだ世界に生きるキャラクターたちが、常に目の前の“歪み”に抗い、“上”を向いて進もうとしているから、そう感じさせてくれるのだろう。

 『東京ヒゴロ』の塩澤和夫ももちろん同じだ。彼は、長作だけでなく、かつて関係のあった、懐かしい漫画家たちに会いに行く。ある者は依頼を断り、ある者は引き受けるが、いずれにしても塩澤の情熱が漫画家たちの心に“何か”を残す。

 そう――塩澤和夫にとっての「人生」=「漫画」は、まだまだ終わってはいないのである。

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