スニーカー文庫がラノベ・アニメに与えてきた影響とは? 『暗殺貴族』『真の仲間』アニメ化を機に考察
ラノベと言われて誰もが思い浮かべる作品に『涼宮ハルヒの憂鬱』がある。2003年にスニーカー大賞を受賞して刊行され、シリーズ化される程の評判になった。2006年に京都アニメーションによってテレビアニメ化され、話数をシャッフルしての放送や、キャラクターがダンスをするエンディングが話題となって、2000年代後半にアニメブームをもたらした。2010年代に入ってからは、台頭してきた小説投稿サイトから人気の作品をピックアップする動きの中で、暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を』(以下、『このすば』)を出版してアニメ化も実現。2020年に完結するまでに2期のテレビシリーズと劇場版が作られた。
『このすば』のヒットと前後して、「なろう」のようなネット発で「異世界転生」という要素を持った作品が続々と書籍化されるようになっていく。MF文庫Jの長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』、エンターブレインの丸山くがね『オーバーロード』、カルロ・ゼン『幼女戦記』の“異世界かるてっと”も生まれた。
『暗殺貴族』や『真の仲間』の登場も、こうした流れを受けてのものと言えそうが、一方で4月から6月まで放送されたトネ・コーケン『スーパーカブ』や、しめさば『ひげを剃る。そして女子高生を拾う』(以下、『ひげひろ』)は、同じスニーカー文庫作品ながら、異世界とも転生とも無縁の内容だった。それでいて『スーパーカブ』は女子高生の日々を淡々と、そして丁寧に描写していく内容でファンを掴んだ。『ひげひろ』は背徳的な雰囲気の中に、若者の生きづらさを描いて評判を呼んだ。
ラノベの傾向も、文庫ではラブコメが目立つようになって雰囲気が変わっている。一方で、MF文庫Jライトノベル新人賞から出てきた二語十『探偵はもう、死んでいる。』が、刊行から2年を待たずにアニメとなった。ファンタジア大賞から出た竹町『スパイ教室』も、『このライトノベルがすごい!2021』で文庫部門・新作部門でともに第2位にランクインする人気ぶり。ネットからのピックアップではなく、新人賞で発掘しても押し上げる大切さを、各レーベルとも思い出し始めている。
スニーカー大賞からは、2014年の優秀賞となった久慈マサムネ『魔装学園H×H』以来、アニメ化作品が出ていない。KADOKAWAの他レーベルによる次を探る動きや、ラノベというジャンルの多様性を改めて見せてくれた『スーパーカブ』『ひげひろ』のヒットを受け、スニーカー大賞が変わり、ラノベの傾向やアニメ化の流れにも変化が生まれれるのか。『暗殺貴族』『真の仲間』の面白さが流れを引き戻すのか。気になるところだ。