『刀剣乱舞』のファンも沼にハマる? “刀”をめぐる文学を集めた『刀剣怪談アンソロジー』の魅力を解説
アンソロジスト・東雅夫編による、日本文学からテーマ別に怪談の名作佳品を集結させるシリーズ『文豪怪談ライバルズ!』の刊行が、ちくま文庫で新たにスタート。8月に発売となった1巻目のテーマは、「刀」である。
いま刀といえばやはり思い浮かぶのは、オンラインゲーム『刀剣乱舞』だ。日本の刀剣を擬人化した「刀剣男士」と呼ばれるキャラクターたちが、歴史改変を目論む歴史修正主義者と戦うこのゲームは、2015年にリリースされると大ヒットを記録。舞台・映画・アニメ化といったメディアミックスに加え、刀剣の実物に興味を持った人たちに向けた、寺社仏閣や美術館・博物館とのコラボレーションイベントも盛んに行われている。
そんな『刀剣乱舞』のファンなら登場人物に共感すること請け合いの収録作が、ゲームにも登場する刀をテーマにした東郷隆「にっかり」である。舞台は江戸時代中期、八代将軍吉宗の頃。若い御家人たちは弓術の練習後、暑気払いに白玉を食べながら武芸の話に興じている。彼らの間で話題となったのが、「にっかり」なる妙な名前の刀の由来。武士たちの間で惰弱な気風の漂っていた元禄期を経て、当時は刀の伝承など皆わからなくなっていたらしい。各々推理して自説を開陳するが、どれも決め手に欠ける。そこで呼び出されたのが、弓場の主人の遠縁にあたる博識の老僧・義観。貧相な面構えで怪しい雰囲気を漂わせるこの僧が、「にっかり」の波乱万丈な来歴を語り始める。
他にも、因縁深い2人の刀鍛冶の作った守り刀と妖刀が対決する宮部みゆき「騒ぐ刀」や、恐ろしい鍛刀法で刀が生み出される大河内常平「妖刀記」も、どこかゲームの世界とリンクするような作品であり、刀剣乱舞ファンとの相性もよさそうだ。どうせなら、そのままアンソロジーという沼にもはまってほしいところ。
本書では『刀剣乱舞』にまだ登場していない、一振りの刀がカギとなる。それが天皇家に伝わる三種の神器の一つ、草薙の剣だ。人間に危害を加える尻尾と頭を八つ持つ大蛇を素戔嗚尊(スサノオノミコト)が退治すると、唯一斬ることのできなかった尻尾の中から剣が出てくる。広大な野原の草を薙ぎ払うほどの力を持つことから、剣は「草薙の剣」と呼ばれるようになる。