藤田直樹×林士平×細野修平「MILLION TAG」優勝記念インタビュー 「作家を育てる仕組みを発見できた」

 次世代のスター漫画家の発掘を目指して開催された、「少年ジャンプ+」によるオーディション企画「MILLION TAG」が過日、終了した。

 「MILLION TAG」は、選考を経て選抜された6組の漫画家が、集英社の敏腕編集者とタッグを組み、3カ月間で4つの課題に挑むオーディション形式の漫画賞だ。課題に挑む模様は、YouTube「ジャンプチャンネル」で配信されている。

 優勝を勝ち取ったのは、『BEAT&MOTION』を描いた藤田直樹×林士平タッグ。今回、優勝したタッグのお二人と、本企画の責任者である「少年ジャンプ+」編集長の細野修平氏に、優勝の感想と参加した経験、そして本企画の意義などについて話を聞いた。(杉本穂高/メイン写真:左から細野修平氏、藤田直樹氏、林士平氏)

優勝の要因は「読みやすさ」へのこだわり?

優勝作品の『BEAT&MOTION』

――優勝を勝ち取った今のお気持ちはいかがですか。

藤田:(発表されてから)しばらく時間が経っていますから、今は落ち着いています。今は連載に向けて、本を読んだりして色々調べているところです。

林:優勝できて嬉しい気持ちはもちろんありますが、これから連載、さらにアニメ化もされるので、このハードルを乗り越えていかないといけません。「これが優勝作品なの?」って思われるのも悔しいので、僕も藤田さんと一緒に頑張っていかないといけないと思っています。

――細野編集長は、優勝に選んだ藤田さんの作品をどう評価されたのでしょうか。

細野:(4つの課題を通して)ネーム力が高いと思っていましたが、非常に読みやすくて主人公の感情に没入させてくれるのが一番の魅力だと思います。最初の課題から感情表現が上手いと思っていましたが、課題を通してどんどん上がっていった印象です。

――林さんから見ても、藤田さんの実力は、この企画の間にも向上していった印象ですか。

林:僕は、読みやすいだけでその作品の価値は高いと思っているくらい、読みやすさを重視する編集者ですが、そんな僕から見ても、藤田さんはもともと読みやすさを意識して描いてきた方だと思います。

 漫画の読みやすさは、意識すれば必ず直せるものだと思っています。自分が担当しているほかの作家さんに伝えているのと同じように藤田さんにも指摘していたら、次から必ず直してきてくれるので、この短期間にも読みやすさへの意識がより高まったんじゃないかと思います。

――この短期間でも成長がはっきり見て取れたわけですね。藤田さんは、人間ドラマが得意な印象ですが、それが一番描きたいものなんでしょうか。

藤田:それが描きたいというより、それしかできないという感じです。

――そういえば、最終課題のネタ出しの時に、林さんはダークファンタジーを描いたらどうかと提案していました。

林:あの提案は「MILLION TAG」に勝つためというより、藤田さんがこれから作家として成長していくためのものです。絶対にこれが描きたいというものが思いつかなければ、これまでやってこなかったものをやってみて、視野が広がって成長につながれば、たとえ優勝できなくても成功だと思いますし、僕はそういうスタンスだとご本人にも伝えていました。

――番組内でも「トライ・アンド・エラーでエラーが出ても、そのエラーがわかることは長い目で見れば成功だ」とおっしゃっていましたね。結果的には、藤田さんは人間ドラマに挑んで優勝を勝ち取ったわけですが、これはこれで結果オーライですか。

林:そうですね。色々なことを検討して、最終的に自分の描きたいものや得意なものに戻っていくのは全然問題ないです。重要なのは、その過程が成長につながるかどうかなので。僕が提案したものじゃなくても、藤田さんがやりたいものを見つければ、その判断を最大限サポートするのが僕の役割だと思っています。

――藤田さんは、林さんとの共同作業の中で、何が一番ためになりましたか。

藤田:ひとつはタイトルの付け方ですね。それから急に話が変わるところの繋ぎの悪さを指摘されることが多かった印象です。後は、先ほど林さんも言ってましたが、読みやすさの部分。最終的に評価されたのはその部分だったと思うので、優勝は林さんのおかげだと僕は思っています。

――番組内では叱られているようなシーンもありました。

藤田:あれは叱られているというより、はっきりと意見を言ってくださっているだけで、ちょっと強く聞こえるかもしれないですけど、僕としてはそうは思っていないです(笑)。

林:僕はほかの作家さんにもあんな感じでコミュニケーションを取っています。僕の担当作家さんも番組を見て「いつも通りの林さんですね」と言っていました。

 まあ、番組の編集で使われた僕の発言が若干攻撃性の高いものが選ばれただけで、実際はもうちょっとフレンドリーで普通の人間だと思います(笑)。バカ話とかも結構していましたよね。

藤田:ガハガハ笑いあってる場面もあったんですけど、一度も使われなかったですね(笑)。

――番組を見る限りですが、藤田さんは映画を観たり、本を読んだりといったインプット作業にも時間を使っている印象を一番強く受けました。林さんも番組内で「インプットする日々に当たり前を置いてほしい」と発言されていましたが、連載作家にとってインプットはやはり重要ですね。

林:若い作家さんや新人の方には同じことを言うようにしています。(成功している)作家は、大抵インプットを膨大にされていますし、ほとんど何も観ていないと言っている作家さんも、そう言っているだけで実際にはたくさん観ているんですよ。

優勝した藤田直樹×林士平タッグ

――番組内でも、藤田さんが『SPY×FAMILY』の遠藤達哉先生にも週にどれくらいインプットをしているのか質問していましたね。(※遠藤先生は、週に7~8本くらいのバラエティ番組を録画して観ており、さらに基本的にテレビを流しっぱなしにしていると回答)

藤田:そうですね。遠藤先生の前に『地獄楽』の賀来ゆうじ先生にお会いして、インプットとアウトプットが大事だとお話されていたので、色々な作家さんにどうインプットされているのか聞いておこうと思いました。

林:今、描きたいものがなかったり、こういうことを描くと決まっていないなら、頭の中でグルグル考えるよりも、何か読んだり観たりした方が何か思いつくのもはやいと思います。結局、物語のパターンを知らなければ、良いものは描けませんから、頭の中で煮詰まるまで新しいアイデアを詰め込んでいくといいと思います。

――途中で藤田さんが腱鞘炎っぽくなったと訴えた時に、すぐに病院に行けと身体を心配されている林さんも印象的でした。

藤田:あれは嘘じゃないんですよね(笑)。あの時、都合が色々あっただけで、本当に痛かったんです。

――番組内ではちょっと疑われていましたね……。

藤田:面白がってくれたので、僕は気にしていません。みなさん腱鞘炎には本当に気を付けた方がいいです。

林:腱鞘炎に限らず、腰や手の不調は一度クセになると、ずっと痛くなるので、本当にそういう時は無理しない方がいいです。これはほとんどの先生にも言っています。

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