『SPY×FAMILY』&『スパイ教室』に見る、最高にカッコいいスパイの条件

 ディン共和国にあって「焔」というチームに所属し、世界最強のスパイと目されていたクラウスは、参加しなかった作戦で『焔』の仲間をすべて失い虚無に沈む。そんなクラウスに与えられたのが、スパイ養成学校で落ちこぼれだった少女たちを鍛え、死亡率9割の“不可能任務”に挑むというものだった。

 世界最強のスパイだけあって、6個の南京錠を放り投げ、2、3度腕を振るだけで鍵を開けてしまうクラウスだが、その方法と問われて答えたのが「良い具合に開けろ」だけ。他にも交渉は「美しく語れ」で格闘は「とにかく倒せ」としか教えないクラウスの、超イケメンにして超凄腕ながら、教え方についてはまるでダメというギャップが笑える。

 もっとも、教えられる少女スパイたちにとってはたまらない。そのまま任務に挑めば死んでしまうと怯え、奮起した少女スパイたちは、クラウスを脅して“不可能任務”を取り下げさせようと画策する。そこは世界最強だけあって、色仕掛けも爆薬も見破って退けるクラウス。毒使いの《花園》のリリィなど、あと1歩に迫ったように見えて、「このお遊びには、いつまで付き合えばいい?」という決めゼリフとともに撃退される。

 このセリフは、クラウスの下で成長してく少女たちが、シリーズの中で挑む任務でも、ピンチをひっくり返す場面で登場する。水戸黄門の印籠のように、それが出されるまでのヒヤヒヤ感を味わうのも、シリーズの楽しみ方のひとつ。毒使いだけでなく動物使いや変装の名人や発明のプロといった、それぞれに突出した能力を持ちながら、それ故にスパイ学校で落ちこぼれていた少女スパイたちが、欠けている部分を補いながら任務をこなすチームプレイの妙も読み所だ。

 5月20日に出た最新刊の『スパイ教室05 《愚人》のエルナ』では、スパイ養成学校で最優秀だった6人によるチーム『鳳』が登場して、クラウスをボスに戴こうとして『灯』に挑んでくる。もっとも、教え方が「月にかかる虹のように盗め」や「満月のように丸ごとの自分で」といったクラウスに、「鳳」のメンバーがためらう気持ちも理解できる。完璧に見えて穴があるクラウスのギャップに萌えよう。

 最後に。ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーは2020年10月31日に、そして声をあてた若山弦蔵も2021年5月18日に亡くなった。最高にカッコ良いスパイを生み出した2人に、改めて心からの感謝を贈りたい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『スパイ教室』1〜5巻(ファンタジア文庫)発売中
著者:竹町
イラスト:トマリ
出版社:KADOKAWA

『スパイ教室』01(MFコミックス アライブシリーズ)
著者:せうかなめ
原作:竹町
イラスト:トマリ
出版社:KADOKAWA

『SPY×FAMILY』1〜7巻(ジャンプコミックス)発売中
著者:遠藤達哉
出版社:集英社

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