古生物のビジュアル盛りだくさん! 『ダーウィンが来た!』敏腕ディレクターが迫る”生命大進化の系譜”

 2021年4月21日に日経ナショナル ジオグラフィック社から発行された、日経BPムック『ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代〜中生代・三畳紀)』が熱い。

 著者はNHKの自然科学系番組『ダーウィンが来た!』のディレクター、植田和貴氏。植田氏は15年にわたり自然科学系の、特に恐竜や古生物の分野を中心に番組制作を手がけてきた。そのなかで、これまでに取り上げた内容を時代順に並べ、生命の進化を俯瞰的に楽しめるよう編集したのが本書である。

 書籍という形態ならでは、テレビでは伝えきれない部分を補完する役目もあり、いわば『ダーウィンが来た!』を視聴するにあたってのテキストの役割も担っている本書。番組内で用いられたCGなど図解や写真も多く掲載されており、幅広い年齢層が受け入れやすいムック(ヴィジュアル書籍)のスタイルだ。

 前編では、いくつかのポイントを挙げながら、本書の魅力を紹介。明日公開予定の後編では植田氏に実際にインタビューし本書の見所を訊いた。

 なお本書(第1集)の舞台となっているのは、46億年前に地球が誕生以来、最初の生命や多細胞生物が誕生する先カンブリア時代、多用な節足動物が登場する5億4000万年前以降のカンブリア紀を含む古生代、そして恐竜が登場する2億5000万年前の三畳紀である(三畳紀以降を中生代と呼ぶ)。

「カンブリア大爆発」を境に一変する生物世界

 カンブリア紀に多様な動物たちが誕生した現象を「カンブリア大爆発」という。その過程のヒントになるのは、中国雲南省のチェンジャンにある「カンブリア紀の最初期の地層」から見つかった数ミリ程度の殻の化石。これらはケイ酸や炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのミネラルでできており「スモール・シェリー・フォッシルズ(SSF)」と呼ばれている。その出現がカンブリア大爆発の引き金だったと言われ、その後の地層からは、カンブリア紀を代表する三葉虫やハルキゲニアなど全身を殻で覆われた複雑な姿の動物たちが見つかっている。

三葉虫 画像提供:NHK
ハルキゲニア 画像提供:NHK

 こうしたミネラルは、大陸から供給されたと考えられている。もともと海底だった場所が広範囲で海上に頭をだし陸地になったが、そこが雨や風によって何百万年もかけて浸食され、その後の世界規模の海面上昇によってさまざまなミネラルが海に溶け込んだという。

 そしてカンブリア紀が始まって2500万年後、殻の進化の集大成、カンブリア紀が生んだ最強の王者と言われているのがアノマロカリスだ。アノマロカリスは推定30センチ以上、中には50センチを超える個体もあったと考えられている。カンブリア紀の生き物の多くは数センチ〜10センチくらいなので、アノマロカリスは破格の大きさ、恐竜時代でいうティノラサウルスのような存在だったのだ。

アノマロカリス 画像提供:NHK

眼点からカメラ眼へと進化して脊椎動物が台頭

 巨大節足動物のアノマロカリスは、大きな眼を持つことも特徴のひとつ。これは複眼と呼ばれるもので、現代の昆虫と同様に小さな眼の集まりだった。一方で、人間が属する脊椎動物の祖先は紐(ナメクジ?)のような姿だった。ピカイアは、脊索動物という脊椎動物になる一歩手前の生き物で、明るさを感知できる「眼点」を持っていたとされる。さらに一段階進化したメタスプリッギナは原始的な魚の一種(無顎類)に近い仲間と考えられており、人間と同じ「カメラ眼」を持っていたとされる。まさに、カメラ眼を持つご先祖というわけだ。

ピカイア 画像提供:NHK
メタスプリッギナ 画像提供:NHK

 

 カンブリア紀には数センチだった脊椎動物は、進化を重ね、やがて巨大な姿となる。約1億4000万年後のデボン紀後期には全長8〜10メートルにもなるダンクルオステウスが海を支配した。巨大な顎と骨でできた鋭い歯(私たちの歯とは異なる)を備え、噛む力は海洋動物としては史上最強と言われている。そしてダンクルオステウスのもうひとつの強みが10センチを超える大きさのカメラ眼である。3億6000万年前のデボン紀、脊椎動物は1億年以上の間、海に君臨してきた節足動物をついに追いやり、表舞台に躍り出たのだ。

ダンクルオステウス 画像提供:NHK

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