「小説家は儲かる職業」 松岡圭祐が明かす、ベストセラー作家の収入とその創作メソッド

 「小説家は儲からない」とはよく聞く話だが、実際はそうではなく、むしろ小説家の富豪はたくさんいるーー新書『小説家になって億を稼ごう』(新潮社)は、その刺激的なタイトル通り、「小説家は儲かる職業」だと断言して、実際に「億を稼ぐ」方法を指南する、かつてないハウツー本だ。著者は、『催眠』『千里眼』『万能鑑定士Qの事件簿』など数々のベストセラーで知られる小説家の松岡圭祐氏。収入について明かす作家が少ない中、いったいなぜこのような書籍を出そうと考えたのか。そして小説家として稼ぐには具体的にどのようにすれば良いのか。著者の松岡圭祐氏に聞いた。(編集部)

一冊2000円の単行本なら、50万部で著者に1億円

ーー本書では「小説家が儲からないというのは嘘」だとして、小説家の富豪はたくさんいると断言しています。夢のある話ですが、多くの小説家があまり儲けについて語らない中、このような書籍を出そうと考えた理由について、改めて教えてください。

松岡:ここ最近は「本が売れない」という声があまりに吹聴されすぎ、とりわけ「小説が売れない」と強調されすぎています。しかしこれは事実に反しています。「専業の小説家は成り立たない」とか「食える小説家は百人ぐらいしかいない」という俗説も、やはり正確ではありません。 

 書店をめぐれば「○百万部突破!」という帯が、ライトノベルから一般文芸まで目につくように、過度に悲観的な業界の噂は、事実と異なっています。売り上げ上位の小説家は、億単位の年収を稼ぎます。氷山の一角と囁かれますが、それはどの業種でも同じですし、どの道をめざすにも共通の概念です。小説家の富豪は一定数いて、普通に食べられる人たちも大勢います。専業にしたいと望むのに、なんら支障のない仕事なのです。

 創作といえば、まずYouTuberをお考えになる方も多いのですが、ベストセラー作家になれば社会的地位が保証され、出版社にも守られます。同じノマドワーカーでも、顔の見えない運営者によるネットの配信サービスに依存するのとは、大きく状況が異なります。

「儲けばかりを考えるのは本当の作家ではない」「作家はストイックであるべきだ」とのご意見はごもっともです。小説家は創作についてストイックであるべきです。

 しかしそうであるなら、まず商業的に収益が見込める大衆小説を書いて、専業作家となり、のちに渾身の力作を発表するのがよいのではと思います。作家として出版社から信用を獲得すれば、多様なジャンルの小説を刊行できるようになるからです。流行作家という色眼鏡で見られたくないのであれば、力作の発表時には別のペンネームを用いる手段もあります。

 事実として小説家は儲かるのですが、本当に儲かっている方々は慎ましく控えめな性格であられ、沈黙されがちです。しかし、小説家は儲からないという風説ばかりが広まると、せっかくの才能ある人々が、小説家になるのを断念してしまいます。それは文学全般をつまらなくし、出版不況に拍車をかけてしまいます。

 多くの才能ある人々が参入してくれば、「最近、小説が面白くなったね」という声が、世間に広がっていくと思います。そういう状況につながる手助けになればとこの本を書きました。

ーー松岡さんから見て、「この小説家は意外に稼いでいるはず」と感じる方は誰でしょうか。例えば、「若手のラノベ作家でもこれくらいの実績があるなら、これくらいの年収にはなるだろう」といった目安でも良いので、教えていただけますと幸いです。

松岡:これは誰と言わず熱心な読者であれば判ります。税金抜きで簡単に計算し、一冊2000円の単行本なら、50万部で著者に1億円が入ってきます。文庫を年間3冊出した場合でも、最近の文庫は高額ですから、価格800円で印税10%として、それぞれ42万部売れていればよいのです。3作がシリーズであれば、さほど珍しいケースでもありません。ライトノベル作家は隔月でシリーズを出したりするので、年間6冊ならそれぞれ21万部ずつです。非常に現実的な数字です。

 よく「部数の公称は信用できない」「多く謳っている」と囁かれますが、これは過去の話です。作品の人気が持続していて「その公称が世に出るころには本当にそれぐらいの部数に達している」と見込まれるケースに、多めに謳うことはあるでしょうが、現実離れした途方もない数字を出版社が謳うことはありません。

 ですから宣伝に謳われる累計部数などから計算し、紙の本の収入はおおよそ算出できるはずです。

 また現在では、紙の本以外にも電子書籍で収入が伸びます。電子書籍の購買者数はコロナ禍で急激に増えました。印税率は紙の本より高めであり、15%、20%もあります。電子書籍は売り上げ部数分の印税が入ってくるのですが、紙の本の初刷部数に加え、電子の実売部数が収入になるわけです。ネット書店で在庫切れを起こさない電子書籍は、昼夜問わず誰かにクリックされるたび、その場でお金を生んでくれます。ですから紙の本が、先ほど挙げた例ほどの部数に達していなくても、電子書籍と合わせて一億円に達する場合もあります。

 他にメディア化が並行していたりすると、そちらからの原作使用料も入ってきますから、さらに収入は増えます。しかし大抵は紙の本の印税がほとんどを占めますから、基本的には宣伝で謳われる部数で推測可能です。

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