『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』への違和感が消えた理由 社会的に認められない恋愛をどう描く?

 吉田を振ったはずの後藤さんが、今も吉田のことが気になってしかたがない様子を描いて吉田の行動に“枷”をかけた。仕事ができないようで実はできる後輩の女性社員も出してきて、吉田を中心にハーレム状態というには牽制し合っている風もある奇妙な関係を作り上げて、情痴の泥沼にハマっていく展開を巧みに避けた。このことで、楽しい時間、愉快な関係を感じさせてくれる作品になった。

 その一方で、少しずつでも沙優の抱えた事情を明らかにして、北海道の実家を飛び出さずにはいられなかった心情に迫っていく。沙優が北海道の実家を出て、吉田の部屋にたどりつくまでの間にしてきたこと、もってきた関係も示して、社会が決して良識や見識だけに満ちておらず、男と女がいたら思い浮かべる状況が起こりえる“現実”であることも分からせる。そんな構成に、抱いていた違和感は消えた。

 この物語が、どこに落ち着くのが理想なのかを答えることは難しい。主人公の吉田と沙優が、それぞれに違う願望を持っていることが、何をもってハッピーエンドとすれば良いかを分からなくさせる。それでも、真夜中の路上に座っていた女子高生が、何らかの境地を得て終わることだけは確かだろう。そんな道筋を語るためにこそ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』という物語があったのだとしたら、最後まで付き合うしか道はない。

 たどり着いた場所で抱くのが、満足感だと信じて。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』(角川スニーカー文庫)
著者:しめさば
イラスト:ぶーた
出版社:KADOKAWA

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