アンジャッシュ児嶋一哉が語る、芸人を続けることができた理由 「明日には解散しようと思ったこともある」

お客さんの笑っている姿にワクワクしていた

――短いエピソードが詰まったエッセイではありますが、「好きなことを見つけること」や「ひとつのことを止めないこと」の大切さに触れている部分などは、とても心に響きます。テレビに出たくてお笑いの方向へ進み、早くから事務所に所属できていたとはいえ、諦めずに続けられたのはなぜでしょう。迷う瞬間はなかったのですか?

児嶋:最初の10年くらいは辞めようと思ったこともありますよ。生活はできないし、借金も増えていくだけだし。明日には解散しようと思ったこともあります。でもそのときでも、ネタは結構ウケてたんです。仕事もなければ、ネタもウケないとかだったら、諦めていたかもしれないけど、ネタはウケるので、「何かあるかもしれない」と思えた。それがつなぎとめてくれてました。

――やっぱり自分たちには才能があるはずだと。

撮影 TOWA

児嶋:才能があるというと言いすぎですけど、でもコントをやって、お客さんが笑っている姿を見ると、「今日こそテレビ局のすごいプロデューサーの人が見に来てくれて、声をかけてくれるんじゃないか」とか、「ウケてることが噂で広がって、人気出るんじゃないか」とか、ワクワク感はありました。ネタもウケていなかったら、だけど「好きなことだから」と続けられたかというと分からないです。でも本当に好きなら、そのときウケなくても、また研究して試して、ネタを磨いていって、ウケるまでやってるんじゃないかな。

――「アンジャッシュ」のすれ違いコント、勘違いコントも、他の人のコントからヒントを得たりと、試行錯誤の上で誕生していったんですよね。

児嶋:どんな人でも、その人にあった芸風、その人にしかできないものってあると思うんです。それを見つけられれば。そこまで続けられるか、なのかな。

――今の「いじられキャラ」もそうですが、児嶋さんには、周りの意見を聞ける柔軟性があったのがよかったのでしょうか。

児嶋:いや、昔は「そんなのヤだ」みたいな感じでした。そりゃ、柔軟性はあったほうがいいと思いますよ。でも若い時には頭硬く突っ走るものですから。「いじられキャラ」とかにしても、そんなので笑いをとってもしょうがないとか、反発して。ウケなかったり、悩んだり、失敗したりして、そういう経験をするから、体にも頭にも残るし、いろんなことが見えてくるんだと思います。

俳優業も芸人という軸があってこそ

――「アンジャッシュ」のコントには、どんなこだわりを持っていますか?

児嶋:僕らの場合は台本に一番力を入れてます。ふたりのキャラクターを生かそうとしている内容ではないし、逆の言い方をすると、もっとうまい役者さんがやったほうが面白くなる内容だったりする。ふたりとも強いキャラクターがあるわけでも、ボケ突っ込みのセンスがすごくあったわけでもなかったので、自然とこうなっていきました。

――弱みにもなりそうなところを、試行錯誤して強みに変えていった。

児嶋:結果的にはそうですね。どう補っていくか考えながらやっていくうちに。でもバラエティに出るようになってからは、また全然違うふたりになっていきました。ネタのキャラとバラエティのキャラでは違いますね。

――現在、俳優としても大活躍されています。児嶋さんにとってのお笑いとは、どんな存在になっていますか。

児嶋:今は本当にいろいろなことができる時代ですよね。テレビとかYouTubeとか、ドラマにも出させてもらったり。僕だけじゃなく、多くの芸人が、本業がなんだか分からないようにも映るかもしれません。僕も含めて、普段ネタをやっていない人もいっぱいいるし。でも、すごく曖昧な考えですが、あくまでも芸人という軸のもとに、ほかの活動をしているつもりです。お笑いの児嶋がドラマに出たり、本を出したり、時には歌も歌ったりしている感覚。軸はお笑いにあります。

――軸があるからこそ、ほかのことも挑戦できる。

児嶋:うん。じゃないと自分自身、ワケがわからなくなってしまう。そんなこだわりは、人には伝わらないかもしれないけれど、でも自分としてはそうです。『半沢直樹』に出ても、バラエティでネタにできるし、こうしてエッセイを書いても、それもネタとして話せる。

――なるほど。今回、初のエッセイ本を書いてみて、新しく見えた「自分」はありましたか?

児嶋:新しくというより、改めて、ですね。優柔不断というか、なにか意見を言ったあとに、でも逆からの目線もあるよなと言ったり。コメンテーターとかには全然向かないなと思いました。「逆の意見もあるよね」と、つい保険を入れたくなるので。自分ってやっぱりこうなんだなと感じたし、自分らしいものになったと思いました。普段本を読まない人でも読める本だと思うので、軽い気持ちで手に取って欲しいし、なにかひとつでも心に留まってくれたり、クスっとしてくれたら嬉しいですね。

■書誌情報
タイトル:『俺の本だよ!!』
著者:児嶋一哉
発売日:2021年3月20日
価格:本体1430円(税込)
発売元:世界文化社

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