『メタモルフォーゼの縁側』著者・鶴谷香央理が語る、BLと友情 「『異物』を取り入れると風通しがよくなる」
高校生の自分に言いたかったこと
――雪さんとの関係性だけでなく、幼なじみの紡くんやその彼女の英莉ちゃんなど、同世代のいわゆる目立つ子たちとも、うららさんは自分なりの関係を築いていきますね。鶴谷さんが以前「学校では、華やかな子と地味な子が分かれてしまいがちで……資質や価値観の違いを理解することは必要ですが、仲よくなれないわけじゃないと思っています」とおっしゃっていた記事を読んで、すごく素敵だなと思いました。
鶴谷:相手のことを最初から怖いと思ったり、たぶんこういう人だろうなと決めたりすることで、うまくつきあえないことが自分にもあったなあと。今でも全然あるんですけど(笑)、なるべくそうしないようにしたいとは思っています。
――特にうららさん世代の人には、直接響く部分だと思います。
鶴谷:妹から「高校生の時の自分に言ってあげたいことを描いたら?」と言われたんですよ。それで考えて、「偏見で人を見ないほうがラクだと思うよ?」と自分に言いたいなと思いました。
――紡くんとうららさんは、とてもいい関係性ですね。無理に恋愛関係に進むのではなく、お互いがいてよかったと思えるような間柄です。
鶴谷:恋愛感情が100%ないかというとそんなこともないと思いますし、恋愛関係になる可能性も十分にあるとは思います。ただ、「あの人とは恋愛にはならなかったけど、大好きな人だったなあ」と思ったりすることってありますよね。しかも自分とは全然性格が違う相手なのに。あの2人で、そういうことを描きたいなと思いました。
「何回でも友だちになれるよね」と言われてハッとした
――ラストは、雪さんが外国で暮らしている娘夫婦のところに旅立ち、うららさんはそれを見送る、というものでした。2人のこの後があると思えるような清々しい終わり方ですね。
鶴谷:そう言っていただけて、安心しました。わりと早い段階から2人が離れる終わりにしよう、とは決めていて。高校生の時にすごく仲が良かった友だちがいるんですが、卒業してからは頻繁に合うこともなくなりました。でも、久しぶりに会った時に「仲良くなったあの時があるから、これからも何回でも友だちになれるよね」と言ってくれて……。ハッとしましたし、すごくしっくりくるな、と。このマンガでも、2人の関係をそうできたらいいなと思っていました。
――高校生のうららさんがずっとこのまま75歳の雪さんと友だちでいるとは考えにくいですが、「何回でも」友だちになればいいんだと考えると、希望がわいてきます。
鶴谷:2人はいい思い出を共有しているけれど、ずっと足並みを揃えて一緒に生きていくような友情とは形が違うのかなと思うんです。嫌いになったわけじゃなくても、物理的な距離が変われば関係も変わったりしますよね。前はそれがさみしいと思っていたんですが、今はそういうことではないよなあと思っています。
――物語終盤で雪さんが娘に、うららさんへの感情を「こういうのを執着っていうのかしらね」と言っていますが、むしろまったくそう感じさせない言い方で。執着にはならない、2人の友情のあり方も魅力なのだなと思いました。
鶴谷:私は雪さんとは逆で、執着したり、共通理解が得られるはずだと思いすぎて、うまくいかないことがたくさんありました。相手と自分が完全に理解しあって、混ざり合っていると思っていたんですよ。でも、そんなわけはなくて。他人というのは、本当に自分とは違うものなんですよね。雪さんとうららさんも腹を割ってどんどん話していったら、合わないところも出てくるかもしれないけど、気持ちを想像し合って、つきあえるところでつきあうものなのかな、と今は思います。
――確かに2人はすべてを話してはいないですが、それでも心が通じ合う部分がある。2人を見ていると、それでいいんだなと思えてきますね。
鶴谷:はい。これも若い時の自分には、わからなかったことですね。