天才野球少年が記憶喪失に? 人気急上昇の野球漫画『忘却バッテリー』の面白さとは

 2018年4月から「少年ジャンプ+」で連載中のみかわ絵子による漫画『忘却バッテリー』。

 中学硬式野球界で恐れられていた天才バッテリーの清峰葉流火と要圭。その後の進路に注目が集まっていた2人だったが、進学したのは野球部のない都立小手指高校。さらには、清峰と要のバッテリーに心を折られ野球をやめた天才プレーヤー藤堂葵と千早瞬平までもが入学してきていた。天才たちが集った小手指高校に、野球部が発足。そしてあれよあれよという間に甲子園を目指すために公式戦へ――。巻を追うごとに人気が加速している『忘却バッテリー』の魅力を紐解く。

主人公が記憶喪失?

 主人公である要圭は中学時代ピッチャーの清峰とバッテリーを組んでいた。冷静沈着に清峰をリードし、チームを引っ張り、「智将」と呼ばれていた。しかし、記憶喪失になり、野球のことも忘れてしまう。……となると、シリアスな展開を予想してしまうが、その期待は数ページで裏切られることになる。記憶を失ってからは智将・要圭の姿は鳴りを潜めてしまう。そんな要と再会した人たちの印象はだいたい同じだ。

「頭悪くない?」

 発言がなんというか、アホなのだ。隙あらば鉄板ギャグの「パイ毛~!」を繰り出し、相手を絶望させる。清峰以外は誰も笑わないし、おもしろいとは言えないこのギャグを相手が笑うまで続けようとするのだから地獄である。

 どうやら、もともとの性格は記憶を失ってからのもののほうが近いようで、「智将・要圭」は清峰が思いっきりプレーができるように要自身が作っていったキャラクターのようである。

ギャグとシリアスが交錯する

 記憶を失ったとは言え、体は野球を覚えている。無意識のうちに捕手としての正しい構えをとっていたり、清峰の剛速球にも反応する。もともと野球センスに優れているというのもあるだろうが、記憶を失うまでの間どれだけ野球を体に叩き込んできたのかがわかる。

 そんな要は次第に今の自分と智将のときの自分が交錯するようになる。「智将」と呼ばれるようになった自分はなぜ存在したのか。その理由はちっとも笑えるものではなく、要の肩に重くのしかかるようなものだった。

 ほかのキャラクターについてもそうだ。清峰は要が行くから、要としか野球がしたくないから、という理由で小手指高校に進学したが、野球をやめた藤堂や千早にはシリアスな理由があった。それはごくシンプルで、野球をプレーする者なら誰もがぶつかる可能性があるもの。ただ、野球を辞めたところで、野球が好きだという事実は変わらない。小手指高校で天才と素人の中でプレーをするうちに、藤堂たちも自分の内面と向き合い、そして野球に向き合っていくようになる。

 考えてみれば、ずっとシリアスな男子高校生はいないし、ずっとアホでいられる男子高校生もいない。ギャグとシリアスがまじりあうことで、より等身大の男子高校生を描いているのではないだろうか。それぞれのボケやギャグ、細かなやりとりは思わず「ふふっ」と笑ってしまうようなもの。なんというか、和むのだ。

関連記事