マンガ大賞4年連続ノミネートの『ダンジョン飯』 バトル×魔物グルメの超美味ミックスを堪能

 マンガ大賞4年連続ノミネートという、唯一の記録を持った作品が九井諒子の『ダンジョン飯』(KADOKAWA)だ。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』がノミネートすら逃した賞に、幾度も名を連ねながら受賞は逃した。新しいものに流されがちな漫画読みの心理を、すり抜けてしまったのかもしれないが、面白さがハイレベルで安定していたからこその支持でもある。新しい作品を知ってもらいたいという意味で、8巻までと規定されているマンガ大賞の受賞資格は失ったが、2月13日刊行の最新第10巻でも、ファンのお腹を満たして余る極上の展開を見せてくれる。

 魔物たちがうじゃうじゃといるダンジョンに入り、富を求める冒険者たちの中に、ライオスとファリンの兄妹がいた。6人でパーティを組んでいたが、凶暴なレッドドラゴンに襲われた際、ファリンが食われながら魔法を使って一行を転移させる。地上に戻ったライオスは、レッドドラゴンに消化される前にファリンを助けて蘇生させたいと願い、再びダンジョンに潜ろうとする。

 着いてきてくれたのは魔法使いでエルフのマルシルと、小柄なハーフフットのチルチャックだけ。装備も資金も乏しい一行は、食料をダンジョン内で調達しようとする。魔物の調理方に精通したドワーフのセンシが仲間に加わって、魔物を相手にしたバトルがあり、レシピまでしっかり添えられた魔物料理の紹介もある、異色のダンジョン&グルメ漫画が爆誕した。

 歩き茸は表面3センチを削ると柔らかくなる。大サソリはハサミと頭と足と尻尾を切り落とす。スライムは洗って干せば高級食材に。ファンタジーでおなじみの、人間たちにとっては脅威でしかないモンスターたちが、丁寧にバラされ美味しそうな鍋物になる様が面白い。命がけで魔物を倒した後で、『美味しんぼ』や『クッキングパパ』のような料理場面が続くギャップがおかしさを醸し出す。新しいものに貪欲なマンガ読みたちを惹きつけたのもよく分かる内容だ。

 蛇と鶏が一体化したバジリスクを狩ってローストする。卵は引っこ抜かれる際に叫ぶマンドレイクを炒めて入れてオムレツを焼く。第1巻から繰り出される魔物料理の数々に、自分でもダンジョンがあったら入って食らってみたいと思えてくるが、そこは魔物だけあって油断をしたら殺される。食わなければ強くなれないが、強くなければ食えないという真理を土台に、協力しながらダンジョンを進み、成長していく冒険ストーリーと、魔物であっても命として尊び、素材を余さず食らおうとするグルメ魂の両輪が、次の巻を手に取らせる。

 ファリンを食らったレッドドラゴンの居場所へとたどり着き、戦いを経て取り戻した第6巻で一件落着となったかというと、そこから物語が急発展していったから驚いた。ファリンのそばに現れ、彼女を奪うようにして去って行ったシスルという名の褐色のエルフが“狂乱の魔術師”と呼ばれている理由。ダンジョン探索のきっかけになった、地下深くにある王国から出てきて、「魔術師を倒した者には我が国のすべてを与えよう」と言い残し、塵となって消えたデルガル王の願い。それらが、再び奪われたファリンを取り戻すために、冒険を続けることになったライオスの目指すものと重なって、ダンジョンの未来という大きなテーマへと発展していく。

 第10巻でシスルは、ライオスたちの前に立ちふさがり、地底に作った彼が理想とする王国を守ろうとするが、その愛は国民たちにとって重すぎるものだった。だから、デルガル王は命を賭して地上に出て、ダンジョンに冒険者たちを誘った。受けて潜ったライオスは、食べたいという衝動の奥底にある魔物への強い関心を見初められ、迷宮の支配者にならないかと持ちかけられる。

 金欠だから魔物を食べるしかないという設定から、魔物料理というグルメ要素が持ち込まれ、冒険ストーリーとのギャップで笑いを誘った展開で票を得ていたところもあった『ダンジョン飯』。初めて歩き茸を食べた時点で、ライオスの感性が種族を問わない愛情へと結びつき、世界を変える展開へとつながると、誰が想像できただろう。