『末期ガンでも元気です』著者ひるなまが語る、ポジティブに生きる秘訣 「執筆・創作という生業のおかげ」
連載が始まるやいなや、SNSで話題となった『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』。末期ガンの体験記として詳細な情報が提供されていることだけが作品の魅力ではない。主人公やその家族は鳥獣戯画のうさぎの姿をしていて愛らしく、一方医師や看護師などは超美形に描かれていて頼もしい。キャラの魅力やテンポの良さが際立つ名作品だ。
これまで電子書籍では単話として販売されていたが、2月15日に紙と電子書籍で単行本化された。出版を記念して、著者であるひるなま氏に、メールインタビューを行った。ひとつひとつ丁寧に回答いただき、誠実で丁寧なお人柄が伺える内容だ。(和久井香菜子)
読書体験は孤独な子どもの味方
――連載までの経緯を教えてください。
ひるなま:手術退院後、この闘病体験を描かせてくださる媒体はないかなと思っていたところ、ありがたくも数社からお仕事のお声がけを頂きました。中でもちょうどCOMICポラリスさんが「エッセイでもいいですよ」と仰って下さったので、これは渡りに船と「ガンの体験記なんてどうですか!」と私から提案し描かせていただくこととなりました。
――ストーリーマンガかと思うほど引きやテンポといった構成がよかったです。どんなマンガを読まれてきたのですか?
ひるなま:幼少時の私は親から本やテレビを制限されていたので、漫画との出会いがやや遅く、小5くらいで初めて少女漫画を読みまして……。その頃は星野架名先生や日渡早紀先生の作品にとても影響を受け、作中に登場するSF映画などをたくさん観ました。高校生までずっと「花とゆめ」の幅広い自由さが大好きでしたね。他にもSF作品が好きで、手塚治虫先生の『火の鳥』は特に「復活編」を暗記するほど読みました。
――ご自身にとってマンガを読むことや描くことはどういった意味がありますか?
ひるなま:マンガに限らず読書体験は孤独な子どもの味方だと思います。現実逃避は心を慰撫しますし、いろんな価値観や思想を知ることは生きる力となります。虐待を受けていた私にとって、一番の幸いが、都市部に住んでいて大きな図書館が家の近くにあったことでした。1980〜90年代なのでまだ図書館にはマンガがない時代でしたが、家に居たくない時はずっと図書館にいて本を読んでいました。そんな私は図書館学や書誌学を学び、印刷出版の仕事をしながら趣味と実益を兼ね執筆を始めたのです。
漫画を描くというのは実にいい趣味でして、作品制作自体が楽しいのはもちろん、自分の主張を人に伝え理解してもらえる上に、人に読まれるほど自分の承認欲求も満たされ、そして表現を磨くための読書や調べ物で知識も興味も蓄積し続け、更に色々描きたくなって……正のスパイラルが人生に生まれるんです。私のポジティブな楽しい生き方は、この執筆・創作という生業のおかげだと思っています。
――虐待を打ち明けられたときに、否定する人が多いと聞き、本当に胸を痛めます。勇気を持って告白したことに反論してくる人たちがいるのはどうしてでしょう?
ひるなま:想像力の欠如でしょうね。誰しも自分が育った家庭以外は知らないはずですが、「知らない」ものが世界にはたくさんあるということを「知って」いないと、傲慢になりやすいですよね。無知の知とは獲得し難いものなのでしょう。食わず嫌いをせず、いろんな時代や地域の本・映画などに学ぶことで視野を広げ、あとはやっぱり謙虚に人の話を聞く姿勢を持つしかないと思うので、まずは自分がそれを心がけたいとは思っています。現実は難しいですね……。
――客観的に自分を見つめて自分について描くことで、なにか意識が変わることはありましたか?
ひるなま:やっぱり時系列で情報を整理し起承転結を付けていくことで、現実の煩雑な出来事や感情が渦巻く自分の脳内も整理されていきました。
――たくさんの反響があったかと思います。どんなものが多かったでしょうか?
ひるなま:頂いた反響が最も多かったのは、内視鏡検査の回・虐待の回かと思います。内視鏡検査については私も自分の経験しか知らないので、沢山の反響のおかげで、人によって苦痛の度合いに天地ほども差があるんだということを実感しました。虐待については、そもそも人に話して信じてもらえた経験がほとんどないので、どうせまた「大げさな」「親不孝者が」「不幸自慢乙」みたいなバッシングがたくさん来るのだろうと思っていました。しかし予想に反し実際の反響は、真摯なご理解の声、同じ問題に悩む方の叫び、よくぞ声を上げてくれた……などのお褒めの言葉ばかりで、あまりに嬉しくて泣いてしまいましたね。