2021年、まず読むべき漫画『チ。』 「地動説」をテーマに描く美学とは?

 すごい物語だ。ラファウを導いた元学者は満天の星空のもとで彼にこんなことをいう。「神が作ったこの世界は、きっと何より美しい」。しかし、この時代に「真理」を追究することは、その神に逆らうことになりかねないのだ。そんな元学者にラファウは問う。「そんな人生… 怖くはないのですか?」。元学者は答える。「怖い。だが、怖くない人生など、その本質を欠く」。

 事前情報が何もないままにこの第1集を最後まで読んだ者は、きっとラスト十数ページで唖然とすることだろう。それくらいものすごい展開が、本書の巻末には用意されている。タイトルの「チ」とはもちろん、「地」のことを意味しているのだろうが、それは同時に、「血」であり、「知」でもあるということだろう。

 漫画という表現は自由である、と冒頭で私は書いた。それはこの『チ。』という作品についてもいえるのだが、先が見えない不安な時代に己を貫くことの大事さを描いた本作は、遠い昔の異国の物語でありながら、いま読むべき「時代の書」であるといえなくもない。いずれにせよ、自分の直感が正しいと思う「知(=好奇心・想像力)」を貫くために、危険を恐れずに「血」を流した漢(おとこ)たちがいたからこそ、いまの自由がある、ということはいえるだろう。

 1月12日(頃)には、早くも第2集が発売されるようだ。繰り返し描かれる拷問や処刑のシーンに目を背けたくなる向きもおられるかもしれないが、2021年、まず読むべき漫画はこの作品だ、と個人的にはお薦めしたい。

『チ。ー地球の運動についてー』第2集

■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69

■書籍情報
『チ。ー地球の運動についてー』(ビッグコミックス)
著者:魚豊
出版社:小学館
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