Netflixはなぜ圧倒的な成功を収めたのか? 「結果がすべて」の冷徹な人事戦略

 Netflixってなんであんなに広まったんだろう? と思う人は多いだろう。Netflixの内幕を書いた本で邦訳が出ているものは4冊。これらがそれを考えるヒントをくれる。4冊をざっと紹介すると以下になる。

1)Netflixで人事を取り仕切っていた(現在は退社)パティ・マッコードの『NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く~』。

2)DVDレンタルビジネスで世界最大を誇ったブロックバスターを新興のNETFLIXが打ち破った過程を生々しく描いたジャーナリストのジーナ・キーティングによる『NETFLIXコンテンツ帝国の野望 GAFAを超える最強IT企業』。

3)現CEOのリード・ヘイスティングスに半ば追い出された初代CEOマーク・ランドルフが創業からIPOまでを綴った『不可能を可能にせよ!Netflix成功の流儀』。

4)ヘイスティングスが、名著『異文化理解力』を書いたINSEAD教授エリン・メイヤーとともにNetflixの独特な人事施策(社員の休暇日数は指定しない、上司の承認のようなプロセスを極力排除してスピード感をもって現場で意思決定できるようにすると同時に結果を出せなければ容赦なく切る)を国際展開するにあたり、どんなフレームワークを使ってローカライズしているのかを記した『NO RULE世界一自由な会社、NETFLIX』。

 1のマッコード本と4のヘイスティングス本は重複が多く、どちらか一冊読めば十分だ。

 2のキーティング本と3のランドルフ本も、Netflixが今のように動画ストリーミングサービスに移行する以前のDVDレンタルビジネス時代時期を扱う点で重なっている。

 ライバルのブロックバスター側の取材も踏まえて全体像を捉えるか(キーティング本)、当事者の視点で見るか(ランドルフ本)という違いはあるが、これもどちらか一冊でいいだろう。

 本から探ろうとすると「Netflixがサブスクリプションモデルのストリーミングサービスに移行してからどんなマーケティングをしてきたのかを知りたい」という、おそらくもっとも需要のありそうな部分については直接的には見えない。

 ただ、組織づくりや創業ストーリーから今につながる特異さをみいだすことはできる。

結果を出せそうな人間には自由な権限と巨額を投資(うまくいかなければさよなら)

 マッコードやヘイスティングス本で繰り返し説かれるのは、

・ハイパフォーマーだけ集めた組織を作って権限を与える
・社内調整や上司の承認のようなプロセス、ルールは極力省略
・カネは出すが口は出さずにチャレンジ推奨
・中途半端な結果しか出せないなら早めに切る

ということだ。

 こうなった理由は、業績不振でリストラしたあと残った人間だけで仕事を進めたときに「あれ? 前よりスムーズに仕事ができるぞ」とヘイスティングスたちが気づいたことにある。

 たとえひとりあたりの人件費は高くなっても、才能ある人間だけを集めて自由にやらせたほうが、そこそこの人間をたくさん集めるよりよほど仕事が回る、と。

 したがって、Netflixでは上長が「引き留めたい」と思う人材以外は切られていく。

 これはかつて「経営の神様」と言われたジャック・ウェルチがGE経営者時代(1981~2001)に「1番か2番になれない事業からは撤退する」と言って業績を挙げる一方、容赦なく人切りを実行していったことを思わせるシビアさだ。

 これは対クリエイターに言われていることとも通じている。

 Netflixはデータ重視の経営で知られているが(いかにして同社がデータサイエンティストを集めて経営に反映していったのかについては2のキーティング本に詳しく書かれている)、クリエイターに対して細かく数字を元に口出しするようなことはしていないと言われている。

 正確には、『ハウス・オブ・カード』成功の理由についてCEOヘイスティングスの本4には「フィンチャーを起用したことに尽きる」と書いてあり、ジャーナリストのキーティングの本2では「ビッグデータを使ったマーケティングに基づく制作のおかげだ」というNetflix内部の人間の発言が引かれており、どっちが正しいのかわからない。

 ただ映像制作者のインタビュー記事などを合わせて読むと、ヘイスティングスの言っていることのほうが真実に近いのではないかと思う。

 同社の徹底したデータ活用はあくまで、いかに顧客を獲得するか、ユーザーに作品をどう提供するかというto C(対顧客)部分に対してであり、大手映画会社などとは異なり、クリエイティブ部分(作品づくり)にやたらと制約やチェック、承認プロセスを何重にも設けているわけではないらしい。そしてドラマでもパイロット版をつくるくらいならシーズン1全部作らせてしまう、と。

 しかし、期待した成果が得られなければ容赦なく打ち切る。

 それがスピード感のある経営と制作につながっている。

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