『鬼滅の刃』完結後も勢い止まぬ「ジャンプ」 ヒット作が続々生まれる理由とは?

■全社一丸+チャレンジを推奨する社風

 ジャンプ編集部以外も含めるならば、集英社を取材していて感じる強みは、ひとつの作品をいかにして売り伸ばすのかに関して、部署横断で全社的に取り組む体制があることだ。

 マンガの部署と小説(jBOOKSやオレンジ文庫、みらい文庫)との連携の巧みさは何度か記事に書いたことがある。これなどは「できて当たり前」に思うかもしれないが、部署が違うということは、どの部署に売上が付くかが変わるわけで、それだけで「なんで(売上の大きい)マンガの部署が(売上の小さい)小説の部署に協力しなければならないのか」と非協力的ないし消極的になる会社は少なくない。

 また、取次・書店に対する営業担当者も、マンガと小説、関連書籍や雑誌では異なることが少ないため、編集部間では連携が取れても営業間で足並みが揃わず、書店に対して「並べて置いたらセットで売れる」という周知が不徹底になったり、書店で長く置いてもらえるように刊行スケジュールをすりあわせる作業が社内の段階で不十分になることもしばしば起きうる。

 そういう社内間闘争、縄張り争いが同業他社と比べて相対的に少なく、作家・作品のためになることは全社一丸で取り組む姿勢があるように感じる。だからこそ作品が軌道に乗って売り伸ばすフェーズに入ったときに、ヒットが大きくなる。

 もうひとつ、集英社はチャレンジを推奨する社風がある。

 出版業界は横並び意識が強く、「あそこがやっているからうちもやる」「あそこがうまくいったからうちも」という意思決定は容易だが、最初に手を挙げる会社は少ない。新規事業のプランが「失敗したらどうするんだ」という理由で潰されることもままある。失敗したらやめればいいわけで、やらずに取り損ねた場合の機会損失を勘案しないほうが問題だ、という正論は、しばしば機能しない。

 そんななか、集英社は決算が好調という背景もあるかもしれないが、そもそも社風として攻めの姿勢がある。

 なかでも「やってみて、数字(反応)を見て、思い込みを修正していく」姿勢はもともとアンケート重視のジャンプに備わっていたわけで、集英社の数ある部署のなかでもっともデジタル適応が早く、うまくいったのはジャンプがいわゆるリーンなやり方を元から採用していたからだろう。

 挑戦することと、数字を見て修正することは、両輪でないとうまくいかない。

 ただ「挑戦すればいい」と言うだけでは、赤字の垂れ流しになっていつか崩壊する。

 数字だけ見て判断していると、過去のうまくいったものに固執するという前例踏襲主義に陥りがちで、縮小再生産になる。

 だから「数字を見て判断するが、同時に新しいことを積極的にやる」――新人に機会を与え、これまでにない企画や事業をやっていく。ただし、失敗したら速やかに撤退し、うまくいったらまわりも巻き込んで全力でアクセルを踏み抜く。

 こういったことを組織文化として浸透させているから、ジャンプは強い。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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