創作をめぐる対話、葛藤……『タイムパラドクスゴーストライター』は何を描こうとしたのか?
巻末に収録された特別番外編「いつかのいつかまで」では佐々木達の5年後が描かれる。佐々木は個性的な漫画を描いては打ち切りを繰り返していたが、本人は幸せだ。第1話で印象が最悪だった担当編集の菊瀬は、佐々木の打ち切られた(が、個性的だった)漫画を高く評価する。その姿を見ていると、彼がただの嫌な編集者ではなく信念を持って原稿を見ていたことがよくわかる。
この辺りの創作をめぐる対話や葛藤は、作り手としてはもっと丁寧に見せたかったのだろうが、語り残しも含めて、綺麗な終わり方である。
『タイパラ』でもっとも印象深かったのは、「個性が無い」、「空っぽ」という(漫画家としての)才能がないという烙印を押された佐々木が「それでもオレは夢を見たいんだ」と、必死で足掻く姿だった。その必死さを、多くの人が不快で見苦しいと感じたからこそ、この漫画は打ち切りになったのだろうと思うのだが、たとえ不快感であったとしても、多くの人々の感情を刺激したのだとしたら、そこには「刺さるモノ」があったということだ。
強迫観念とも言える「個性が無い」「空っぽ」の自分に対する不安は、作家を目指す人はもちろんのこと、普通に生きていても多くの人が抱く感情だ。次回作で作者の2人が再び組むのなら、このテーマをさらに深く掘り下げてほしい。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『タイムパラドクスゴーストライター』2巻完結
原作:市真ケンジ
作画:伊達恒大
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
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