「涼宮ハルヒ」シリーズ、なぜ大ブームになった? 優れたストーリーとキャラの魅力を再考

 一方、キャラクターに注目すると、こちらも素晴らしい。涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる。3人とも独自の設定を持った美少女で、それぞれの魅力を発揮しているのだ。男性陣も、美形の古泉一樹と平凡なキョンを、そつなく並べている。男性女性、どちらの読者にも受けるキャラクターが揃えられているのだ。さらに、いとうのいぢのイラストが、キャラクターの人気に拍車をかけた。また、京都アニメーションが製作したテレビアニメによって、一大ブームが巻き起こることになる。

 ところで私がシリーズで一番感心したのは、キョンの描き方である。SOS団唯一の一般人。しかし、濃すぎるメンバーに囲まれても、印象が薄くなることはない。なぜなら彼は、ハルヒがこの世界にとって最重要人物だと知っても、きちんと彼女と向き合うからだ。

 たとえばシリーズ第2弾『涼宮ハルヒの溜息』で、みくるをぞんざいに扱うハルヒに対して、怒りを露わにする。たとえハルヒがどんな存在であっても、クラスメイトであり、SOS団の仲間だと思っているからだ。この時点で他の3人は、ハルヒの行動に対処しているだけである。どんなに親しく見えても、対等の関係になることはない。ハルヒの隣に立っているのはキョンだけだ。だからこそハルヒは、キョンのいうことには、たまに従う。平凡な少年を平凡なまま、物語の中に屹立させる、作者の手腕が鮮やかだ。

 などとシリーズの面白さを語っていたら、『涼宮ハルヒの直観』への期待が、どんどん高まってきた。久しぶりにSOS団と再会できる日が、今から楽しみである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
シリーズ最新刊『涼宮ハルヒの直観』(角川スニーカー文庫)
著者:谷川流
イラスト:いとうのいぢ
出版社:KADOKAWA
発売日:11月25日
https://kimirano.jp/special/haruhi_chokkan/

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