『美少女戦士セーラームーン』大人になってからわかる意味とは? 時代を超えて伝わるメッセージを読み解く

 2014年に新作アニメが配信、2021年1月にその続編となる劇場版が公開される『美少女戦士セーラームーン』。その人気は衰え知らずであり、91年の連載開始から現在まで幅広い世代に支持されている。当時の熱狂を振り返る。

「なかよし」200万部超の立役者

 『美少女戦士セーラームーン』は、アニメ制作と同時進行で原作の連載が始まった異例の作品だ。きっかけはパイロット版となった読み切り『コードネームはセーラーV』が、東映動画(現・東映アニメーション)の目に留まったことにある。

 東映動画は、過去にキューティーハニーや東映魔女っ子シリーズを手掛けた会社だ。当初は『キャンディ・キャンディ』のリメイクを企画していたが、放送権を持つテレビ朝日から難色を示され、代替として『セーラーV』にスポットが当たることとなった。

 また作者の武内直子も、東映のスーパー戦隊シリーズのファンであったという。その東映からアニメ化の声が掛かった事は、作者にとって願ったり叶ったりであったに違いない。

 『セーラーV』の活劇をどのように描くのか、テレ朝・東映の製作サイドは、玩具販売のバンダイの意見を取り入れ、戦隊シリーズや『聖闘士星矢』で培った「5人でチームを組んで戦う」集団戦方式を採用する(内太陽系4人に外太陽系の木星が加わっているのはそのためである)。

 かくして講談社、東映、バンダイの3社が手を組んだ一大新規プロジェクトの幕が切って落とされた。ギリシャ神話モチーフからより馴染みのある天体モチーフへと変更され、主人公が愛野美奈子から月野うさぎに交代し5人制となった現在の『セーラームーン』が、原作が1991年12月に、アニメ版が翌年3月にスタートした。

『きんぎょ注意報!(1)』

 その後の躍進は周知の通りだ。前番組の『きんぎょ注意報!』が好評だったこと事もあり、視聴率は堅調に推移。玩具の売上も変身アイテムであるネイルグロスは振るわなかったものの、幻の銀水晶を巡るストーリーを経て覚醒したうさぎの専用武器・ムーンスティックが42万個のセールスを記録し完売、社会現象となる。

 これを受けて続編の制作も決定。人気がピークに達した『セーラームーンR』放送時の93年にはシリーズ最高視聴率16.3%を記録、ほかの4戦士にも配られたスターパワースティックの売上も好調で、並行する原作の方では武内と同じ年にデビューした『きん注』の猫部ねこ、『ミラクル☆ガールズ』の秋元奈美とともに「なかよし」の発行部数を205万部に押し上げ、大きく貢献した。

 アニメ終了までの玩具商品の売上は年間平均200億円で、これは後年においてテレ朝の視聴率三冠の一役を担ったプリキュアシリーズのおよそ2倍の数字に当たる。まさにムーンライト伝説である。

人気の秘訣は「ハマる」世界観

 『美少女戦士セーラームーン』を語る上で欠かせないのが、その世界観だ。企画段階ではギリシャ神話の原初神であるカイオス、ニュクス、ガイアがセーラーV(ヴィーナス)の仲間になる予定だったが、ヴィーナスを金星に割り当て、水星、火星、木星と同じ守護戦士に再編成、これに伴い月の女王を主人公に変更し、月にまつわる過去世をストーリーの軸に据えた。この判断が大当たりする。

 アニメ放送当時、80年代の占いブームによって天体配置から運命を見る西洋占星術が日本で広まっていた。『聖闘士星矢』の黄道十二宮編をヒットさせていた東映とバンダイは、女性視聴者が表面上の物語だけでなくキャラクターの背景にある神話や説話まで好むことをすでに掴んでいたと見られる。

 67年生まれの武内もこの世代のご多分に漏れず占星術に造詣があり、『セーラームーン』には天体と占星術を元ネタとする設定が盛り込まれた。

・月野うさぎが蟹座生まれ(月の支配宮が巨蟹宮)

・ヴィーナスが月の女王の影武者(金星は月と同様に満ち欠けを行う)

・地球の王が前世からの恋人(西洋占星術では魂に終わりがないとされる)

 など、非常に細かなところまで反映されている。

 こうした設定の細やかさが作品をより神秘的に見せ、子供も大人も「ハマる」世界観を生んだ。多数の記号の集合的な世界観で知られる『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明がこの作品の制作の参考にしたというのだから、ミラクル・ロマンスは伊達じゃない。『セーラームーン』の2代目監督・幾原邦彦も東映動画を退社後、「セカイ系」と呼ばれる『少女革命ウテナ』の世界観を作り上げた。

関連記事