『ひるなかの流星』やまもり三香、「デザート」新連載はどんな物語に? 作者の環境の変化にも注目

 『デザート』9月号(講談社)にて、やまもり三香氏の新連載『うるわしの宵の月』が、表紙&巻頭カラー65ページでスタートした。

 やまもり三香氏といえば、実写映画化した『ひるなかの流星』や、全14巻の長期連載となった『椿町ロンリープラネット』(共にマーガレットコミックス/集英社)などの人気作を手掛けてきたことで知られる。今作『うるわしの宵の月』から『デザート』に活動の場を移し、新たな物語が紡がれていく。

新作は「王子」と呼ばれる男女の物語

 ファン待望となる新連載の主人公は、あだ名が「王子」の女子高校生・滝口 宵(たきぐち よい)。宵が通う高校にはもう1人、王子と呼ばれて女子の人気を集める先輩がいた。王子と呼ばれることに複雑な想いを抱える宵と、飄々とした独特な雰囲気をまとう市村先輩が出会い、物語が回りはじめる――。

 望んでいないのに外見やスペックで王子様扱いされるヒロインと、ありのままの彼女を受けとめてくれるヒーロー。構図だけ見ればまさに「王道」、「定番」とも言える設定だ。やまもり三香氏が王道の設定を描くのは、今作がはじめてではない。『ひるなかの流星』は担任教師とヒロイン、同級生による究極の三角関係を、『椿町ロンリープラネット』では不器用な小説家のもとで住み込み家政婦をすることになった女子高校生の恋愛模様を描いてきた。

 だが、やまもり三香氏はいわゆる「王道」と呼ばれる設定を描きながらも、その物語は決してありきたりではない。たしかに「そこ」に存在する日常のなかに、体温を感じさせるキャラクターたちがいきいきと躍動し、繊細であざやかな心情が描かれる過程で読者の心を揺り動かすのだ。

 やまもり三香氏の作品では、番外編が描かれるのも特徴だといえるだろう。ヒロイン、ヒーロー以外の登場人物の「その後」を描けるのは、彼女・彼らが作中で「生きている」からにほかならない。やまもり氏が描く日常は、読者の世界とどこか地続きになっていて、「記号」としての都合のいい当て馬キャラなどはいないのである。新作『うるわしの宵の月』でも、宵と市村先輩以外にどんな魅力的な人物が登場するのか、今から楽しみで仕方がない。

マネジメント会社・スピカワークスの存在

 やまもり三香氏は最新作『うるわしの宵の月』を連載するにあたって、これまでとは大きく環境を変えている点にも注目したい。前作『椿町ロンリープラネット』の連載終了後、株式会社スピカワークスと契約しているのだ。

 スピカワークスは女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社で、契約作家のマネジメントとプロデュース、新人漫画家・クリエイターの育成などを行っている。同社の代表である鈴木重毅氏は、長年に渡って少女漫画編集者として活躍しており、「デザート」の編集長も務めた人物だ。葉月かなえ氏の『好きっていいなよ。』、ろびこ氏の『となりの怪物くん』、タアモ氏の『たいようのいえ』、金田一蓮十郎氏の『ライアー×ライアー』など、担当作を聞くだけでも敏腕ぶりがうかがえる。

 スピカワークスは現在、やまもり三香氏、森下suu氏(原作担当・マキロ氏、作画担当・なちやん氏によるユニット)と契約中だ。森下suu氏は『日々蝶々』や『ショートケーキケーキ』(共にマーガレットコミックス/集英社)などの作品で知られ、最新作『ゆびさきと恋々』を『デザート』で連載している。

 漫画家をはじめとするクリエイターのエージェント会社といえば、佐渡島庸平氏率いる株式会社コルクを思い浮かべる方も少なくないだろう。コルクには『宇宙兄弟』の小山宙哉氏や『働きマン』の安野モヨコ氏、芥川賞作家の平野啓一郎氏らが所属するほか、ミュージシャンやエンジニアのマネジメントも手掛けている。

 また、スピカワークスと同じく、少女漫画雑誌の編集長が立ち上げたエージェント会社に株式会社コンパスがある。代表の石原史朗氏は、白泉社で『花とゆめ』「マンガPark」 編集長を務めた人物。よしながふみ氏の『大奥』を立ち上げたほか、『夏目友人帳』でおなじみの緑川ゆき氏をデビュー前から担当するなど、企画力はもちろん育成力にも優れた編集者だ。余談だが、奇しくもスピカワークスは2019年6月3日に、コンパスは2019年7月1日に設立されている。

 電子書籍、SNSなど作品の発表の場が増え、作家・作品のプロデュース力も問われる昨今、これらエージェント会社にも注目が集まっている。女性漫画家(クリエイター)、少女漫画に特化したスピカワークスは、今後どんな動きを見せるのか――という点にも、読者の1人として興味がかき立てられるところだ。

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