ワークマン、コロナ禍でも業績好調の理由は? 「時代の流れを読む」戦略を分析

人口減少、人手不足

 日本は人口が減っていき、人手不足が深刻になる。今はコロナ禍で仕事を失う人が増えているものの、マクロのトレンドで見れば生産労働人口の減少に伴う人手不足は避けられない。

 ところがワークマンは圧倒的に省人化を進めている。店舗に人が少なくても、労働時間が少なくても回るようなしくみづくりを徹底しているからだ。坪単位は100坪、駐車場は10台と店を標準化して全国一律に揃え(試験的に120坪の店舗も近年は開いているが)、人口10万人に1店舗と商圏を策定してフランチャイズ同士で食い合わないように設計。さらにすべてをマニュアル化して、誰でも運営できるシステムを確立している。

 ワークマンは値下げをしない価格戦略、いわゆるEDLP(エブリデイロープライス)だから、値引き札に付け替えたりといった面倒な作業が発生しない。そのうえ在庫管理と発注予測システムを構築し、各店舗のオーナーは一括注文ボタンを押せば一瞬で注文が完了する。オーナーを含むスタッフは午前7時の開店の10分か15分前に来ればすぐに店を始められ、日中にレジ閉め作業を行うから午後8時に閉店後すぐに帰れる。

 セブンイレブンの1店舗当たりの平均売上高は年間2.3億円程度、ワークマンは1億円台だがコンビニは24時間営業で1店舗20人程度の運営が多いのに対して、ワークマンは1日13時間営業でなんと平均4人程度で店を回している。「労働強度が高すぎ、儲からない」ではフランチャイズオーナーは集まらない。ワークマンは労働強度を下げ、儲かるようにして熱心なFCオーナーを集めている。

 ワークマン本部がFCのオーナーに求めるのは接客力など限られており(ただしその限られた面は非常に厳しくジャッジする)、そのことによって経営の難易度を下げ、ムリをさせずに稼げる運営のしくみを作っている。各店舗では大量のスタッフを必要としないから、オーナーがバイトの面接やシフト管理に悩むこともない。その地域で労働力の確保が難しくてもオーナー夫婦に加えて2名の計4人の雇用で済むならなんとかなる。

 買う側だけでなく売る側についても時代の流れを読んで手を打っているわけだ。

ムリをしなくても回るようにするしくみづくりに必死で知恵を絞る

 ワークマンが改革に取り組み始めた背景には、職人の絶対数が減っていくという危機感があったのだという。

 しかし、そこで従業員や関係者に属人的な努力を強いて勝つのではなく、時代の流れを読みながら、ムリをしなくても回るしくみをつくる、他社と競合して直接つぶし合うのではなく「戦わずして勝つ」ようなポジショニングをしているのが巧みだ。

 「がんばってなんとかしよう」「戦って勝つ」ではなく「がんばらなくてもなんとかなる」「真正面から競合と戦って消耗するのではなく、棲み分けて利益を確保する」体制づくりへの志向は、今までのやりかたではあちこちがしんどくなっていく(なっている)日本社会で必要なものだ。

 酒井大輔氏によるワークマン本には、そのヒントが詰まっている。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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