『ハイキュー!!』田中龍之介の言葉はチームを、人を、上昇させる 次期エースの活躍に迫る

下を向かない田中に女神が微笑んだ

マネージャー清水潔子が表紙を飾った26巻

 西谷と田中がマネージャー清水潔子の親衛隊として騒いでいる様子は、高校生らしい描写として多く登場している。田中は初対面で清水に「けっこんしてください」とプロポーズをしており、挨拶代わりに「お付き合いをしてください」と言っていた。「最早ネタのように見える」と周りから言われる状況だ。

 一方で、田中に想いを寄せる女の子もいた。幼なじみで宮城のバレーボール強豪校・新山女子に所属する天内叶歌だ。田中がきっかけでバレーボールを始めた。高身長がコンプレックスだった叶歌を肯定し、サーブがうまく打てないと落ち込んでいた時にも「できるまでやればできる」と田中流に背中を押した。

 彼女の登場で田中は叶歌と恋人関係になるのでは……? とも思われたが、コミック43巻で衝撃の事実が発覚する。田中と清水が結婚していたのである。高校時代に田中の「付き合ってください」に応えることはなかったが、シンプルで一途な思いが清水の心に届いたのだろう。稲荷崎戦で不調だった田中について清水が「田中はいつもだいたい大丈夫ですよ」と言う場面があり、清水も田中のことをきちんと理解していることがわかる。振り返ってみれば、田中と清水の出会いの瞬間はきちんと描かれていたし、春高敗退後、荷物を持ちます、と申し出た田中に清水は初めて応えている。伏線は張られていたと言ってもいいのかもしれない。

 一方で気になるのは天内叶歌の登場理由だ。叶歌とのエピソードは田中の真っ直ぐさが際立つ。かわいい幼なじみに好意を向けられても清水への想いが変わることはなかったわけだから。

 これでは叶歌がかわいそうでは? とも思ってしまうが、彼女は田中の「できるまでやればできる」を全うした。背が高いというコンプレックスを抱えた女の子が、長身をいかしたバレーボール選手として成長していく。「できるまでやればできる」という田中の一言が叶歌を強くした。

 たった一言が誰かを強くする。そんな隠れたメッセージが込められているのかもしれない。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)既刊44巻
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html

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