『鬼滅の刃』小説版も好調な理由 作劇方法との相性のよさから考察

作劇方法との相性のよさ

 『風の道しるべ』を読んで改めて感じるのは、『鬼滅の刃』という作品と小説との相性のよさだ。

 『鬼滅の刃』はバトルの駆け引きそのもので読ませる作品というより、戦っている人間同士がどんな背景を背負っているのかを描くことによって、戦いの意味、重みを増幅させ、しかし、基本的には鬼殺隊は皆散っていくという別れを際立たせる作品である。

 したがって小説で個々人のエピソードを掘り下げれば掘り下げるほど、本編の戦いも、より味わい深くなる。小説はその特性上、心理描写が映像よりも得意であり、想いを託す/托される人間たちの物語を描いていく『鬼滅の刃』に向いている。

 もちろん、一方ではアクション自体は小説よりもマンガ、アニメのほうが映えやすい。つまりマンガを軸にして、内面や関係性を掘り下げるためには小説、原作ではテンポ重視で圧縮して描かれているバトルを丁寧に魅せるのがアニメ、という組み合わせによって、『鬼滅の刃』は見事にその世界を広げている、ということになる。

 秋にはアニメ劇場版公開が控え、原作は完結する23巻まであと2巻となった。

 永遠に続くものはないが、想いは受け継がれていく――というのが『鬼滅の刃』の中心的なメッセージである。あと少しだけ、祭りの終わりまでの時を愛おしんでいきたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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