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ウェブトゥーン格闘マンガ特有の表現――アニメではいかに描かれるか?

 ところで、フルカラー縦スクロールコミックでは、日本のマンガのように見開きを使って横や斜めにスライドしていく視線誘導の技法が使えない。

 動きは縦方向に限られる。そうするとさっき格闘ゲームと言ったが、『KOF』スタイルの横移動を前提としたゲームのような動きを描くことは基本的にできない。

 そのため、ウェブトゥーンでアクションを描くときには上下運動や重力表現、バトルならかかと落としや剣を振り下ろすような動きを多用することが一般的になっている。

 しかし『GOH』ではあまりそういう表現は目立たない。

 代わって用いているのは奥行きを活かして対面するふたりを描く、というものだ。向かい合わせで戦っている人間同士を、片方は背中を向けている状態で、片方はこちら(読者)のほうを向いている状態の絵を描く。

 日本のマンガではそういう構図の絵は決して多くはない。

 見開き単位でページが目に入り、横にめくっていくマンガと、奥行き方向の移動はそれほど相性がよくない、というか横に移動させたほうがはるかに自然だからだ。

 こうした奥行きを活かした構図の絵と、攻撃がヒットした瞬間の絵を、2D格闘ゲーム的な横向き向かい合わせの構図を使い、組み合わせて描いていくのが『GOH』スタイルだ。

 そのあたりの「縦スクロールでバトルをいかに描くのか?」という点もこのマンガの見所になっている。

 では縦スクロールのウェブトゥーンに合わせて考案されたバトル描写が、はたしてアニメ版ではいかに置き換えられるのか? 奥行きを使ったパースの効いた構図、主役がこちらに背を向けている構図を多用するアニメーションになるのか?

 すでに放映された1話を観るかぎり、原作同様の奥行き重視の画づくりをしつつ、それをアニメとして自然に見せるためにカメラがぐるりと回り込んで横向きに切り替えたり、逆に横向きから回り込んだり、という演出をしていた(作画が死ぬほど大変そう……)。

 こんなバトルものとしての演出の特異さも気にしながら、アニメ版と合わせてチェックしていきたいところだ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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