少女漫画誌『ぶ~け』は新しい時代を切り拓いたーー松苗あけみが描く、少女漫画版『まんが道』

 かつて『ぶ~け』という少女漫画誌があった。1978年に創刊され、2000年まで発行。百花繚乱ともいうべき80年代の少女漫画誌の中でも、ひときわ先鋭的な作品を掲載し、マニアから熱い支持を受けた。と、他人事みたいに書いてしまったが、私も毎月購入し、夢中になって読んだものである。

 その『ぶ~け』を代表する漫画家は誰になるだろう。内田善美は当然として、『ぶ~け』生え抜きの吉野朔美と竹坂かほり、デビューは他誌だが『ぶ~け』で本領を発揮した、松苗あけみや水樹和佳(現・水樹和佳子)などの名を挙げることができるだろう。個人的には、三岸せいこも入れておきたい。自分の青春時代とリンクすることもあり、誰もが忘れがたい漫画家である。

 その中のひとり、松苗あけみの自伝漫画『松苗あけみの少女まんが道』が刊行された。もちろんタイトルは、藤子不二雄の自伝的漫画『まんが道』を意識したものだ。少年・青年漫画家の自伝漫画や評伝漫画は、この『まんが道』を筆頭に、幾つか数えることができる。だが少女漫画の方は、ほとんどなかった。それが今年(2020年)の2月に笹生那実の『薔薇はシュラバで生まれる【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】』、そして6月に本書と、相次いでかつての少女漫画界を、当事者が振り返る作品が刊行されたのである。ようやく少女漫画も、歴史を語るだけの歳月を経たということだろう。

 いやまあ、このあたりのことを書き出すと止まらなくなるので、話を松苗あけみに戻す。作者がデビューしたのは、サンリオが創刊した、左開きでオールカラーの漫画誌『リリカ』であった。その後、『リリカ』が廃刊になると『ぶ~け』に移籍。最初は典型的な少女漫画を執筆していたが、徐々に独自の魅力を発揮する。そして『ぶ~け』で連載した『純情クレイジーフルーツ』で大きな人気を獲得した。これがなかなかショッキングな作品だった。

『純情クレイジーフルーツ』

 舞台は三流私立女子高。そこに通う、4人組の生徒が主人公だ。メインになっているのは、教師の小田島に恋している、一重瞼の吉原実子。ボーイッシュだが内気な沢渡杏子。可愛い容貌だが毒舌家の桜田みよ子。食べるのが好きで、ふくよかな体形の桃苗あけび(あけびという名前は公募で決定した)。なにかと騒動を引き起こす4人組と、その周囲の人々の織り成す物語が、とにかく面白かった。さらに、女子高生のリアルな生態が、あけすけに描かれているところも新鮮に感じられた。新しい時代の少女漫画が出てきたと、興奮したものである。

 もちろん『ぶ~け』以後から現在に至るまで、作者は漫画家として活躍しており、私も作品を読み続けている。しかしこの『ぶ~け』時代が、特に印象深いのだ。それは作者も同じなのか、本書の後半は『ぶ~け』の話が中心になっている。

関連記事