BL漫画出身のヤマシタトモコ、各方面で高い評価へ 『違国日記』が問う、“普通”というラベリング

この日 この人は群をはぐれた狼のような目で わたしの天涯孤独の運命を退けた

 社会性を持ち、何頭もの群れを形成して生きている狼たち。群には厳格な順位制があり、最上位(アルファ)の狼は自分たちの行き先や行動を決定する、いわばリーダーの役割を担う。彼らは鳴き声や表情でコミュニケーションを取り、はぐれた狼は遠吠えすることで自分の存在を知らせる。しかし、中には仲間との意思疎通を苦手とし、群を離れて額面通り“一匹狼”として生きていく個体もいるという。

 意図せず群からはぐれた子ども狼と、孤独を好み自らの意思で群を離れた狼――そんな狼のような2人が価値観の相違でぶつかりながらも、共に暮らしていく姿を描いているのが、漫画『違国日記』だ。

映画化が決定した『さんかく窓の外側は夜』1巻

 現在、漫画雑誌『FEEL YOUNG』(祥伝社)で連載中の同作は、宝島社「このマンガがすごい!」オンナ編に2年連続でランクイン(2019年に4位、2020年に10位を獲得)。また、「俺マン2019」「マンガ大賞2019」で4位、「第7回ブクログ大賞」ではマンガ部門大賞を受賞するなど、次々と快挙を達成している。

 作者は、今年10月30日に岡田将生×志尊淳主演で公開される映画『さんかく窓の外側は夜』の原作者である少女漫画家、ヤマシタトモコ。彼女は同人活動を経て、2007年に『くいもの処明楽』(東京漫画社)で「このマンガがすごい!2007」BL部門1位を獲得するなど、BLコミック誌を中心に活動。近年は、『HER』(祥伝社)や『ドントクライ、ガール』(リブレ)など、一般コミックでの活躍も目まぐるしい女性漫画家である。

 そんな彼女が描く『違国日記』の主人公は、35歳の少女小説家・高代槙生(こうだいまきお)と、その姪である15歳の少女・田汲朝(たくみあさ)。朝は母、実里(みのり)と父を事故で亡くし、中学卒業を目の前に天涯孤独の身となる。そんな彼女が葬式で親戚からたらい回しにされている様子に業を煮やし、勢いで朝を引き取ったのが、実里の妹である槙生だった。しかし、実里は槙生に対してモラハラを繰り返していたことがあり、槙生にとって朝は確執のある姉の遺児。さらに人見知りで不器用な性格の槙生は、朝との接し方に迷う。実里が嫌いだったこと、そして愛せるかどうかはわからないという気持ちまで正直に打ち明けながらも、槙生は朝の意思や感情を決して踏みにじらない。そんな槙生を通して、朝は母親の知らなかった一面を知り、徐々に両親の死を実感していく。

 少しネタバレになってしまうが、朝が両親の死を実感し始めたとき、彼女の中で最初に浮かんだ感情は悲しみではなく怒りだった。まだ幼い朝にとって、両親は狼の群でいう“アルファ”、つまり自分の安全を守り、進むべき道を教えてくれる存在だ。特に実里は生前、「なりたいものになりなさい」と言いながら、どこかで朝を強くコントロールしていた。けれど、朝はわずか15歳でその存在を失う。あとはこれまでの経験や自身の感覚だけを頼りに、生きていかなければならない。

いないんだーと思うと 砂漠のまん中に放り出されたような感じでぞわーっとする
みぞおちのところがジェットコースターで急に落とされたときみたい

 親からの呪縛から自由になったのと当時に、不安ともう群には戻れない寂しさを味わった朝。けれど槙生は、彼女の孤独を受け止めはするが理解はしない。「わかるよ」や、「愛している」といった優しい嘘は口にせず、ただ肩を貸すだけ。その理由を槙生は朝に「あなたとわたしが別の人間だから」と何度も説明するが、これが『違国日記』の大きなテーマとなっている。

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