『からかい上手の高木さん』が描き続ける、甘酸っぱい日常の尊さ 長期連載となった理由を考察

 山本崇一朗の『からかい上手の高木さん』第1巻を読んだとき、面白いと思うと同時に、これは長く連載できる話ではないと感じた。理由はふたつある。それを説明するために、まずはストーリーの大枠を書いておこう。

 物語の主人公は、男子中学生の西片と、女子中学生の高木さん。クラスメートで、教室では隣同士の席である。授業中でも放課後でも、高木さんは、あの手この手で西片をからかう。一方の西片は、からかわれることを警戒して疑心暗鬼になったり、高木さんをからかおうとして失敗したりしている。また、高木さんの女の子らしさに、ドキドキすることも多い。それなのに西片は、高木さんが自分のことを好きなことには気づかない。高木さんの本気の言葉も、からかいとしか思っていないからだ。かくしてふたりの甘酸っぱい日常は続いていく。

 高木さんにからかわれる西片という、ストーリーのフォーマットは、第1巻第1話の「消しゴム」から出来上がっている。本作にはパイロット版(第2巻に収録されている)もあるが、そちらも同様だ。そして、消しゴムを使ったからかいに翻弄された西片は気づかなかったが、高木さんが彼を好きなことが、読者に提示されるのだ。

 つまり高木さんのからかいは、男の子が好きな女子にちょっかいを出すことの、逆バージョンになっているのである。とはいえ、からかいが行き過ぎるといじめになってしまう。作者は、からかいの内容を注意深くコントロールして、高木さんを可愛らしく描く。このバランス感覚が素晴らしい。

 だがそれゆえに、からかいのネタを考えるのが大変だろう。面白いからかいのネタは、せいぜい五巻くらいで尽きると考えた。だから長く連載できる話ではないと思ったのである。 

 そしてもうひとつの理由が、高木さんと西片の恋愛感情だ。先にも述べたように、高木さんが西片を好きだということは、最初から明らかにされている。また第1巻収録の「本屋さん」では、西片に「私、西片のこと好きだよ」といっている。もちろん、からかわれていると思っている西片は本気にしないのだが、高木さんの可愛さに目が離せなかったり、エッチな気持ちになることがある。ふたりの関係が接近する可能性は、常に胚胎しているのだ。

 そして彼らがカップルになれば、この物語は完結するしかない。しかし作者は、1話完結というスタイルを巧みに使い、ふたりの関係性を何度もリセットし、変わらない日常へと回帰させるのである。だからこそ本作は、長期連載に耐える内容になったのだろう。

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