保護猫カフェ出身の「菊ちゃん」と老夫婦が紡ぐ、優しい日常ーー『猫の菊ちゃん』を読んで
そんな湊文氏の愛情を、菊ちゃんはどう感じているのだろう。その答えは、ページをめくるごとに明らかになっていく。本作は年月をかけてコツコツと描き続けてきた作品を1冊にまとめたものであるからこそ、ページが進むにつれて菊ちゃんの態度にも変化が見られてくる。夫婦2人で話しているとケンカをやめさせるかのように間に入ってきたり、見守ってもらいながらご飯を食べることを好んだりするようになった菊ちゃんの姿は2人に対しての愛が深まった証拠。3人はゆっくりと、しかし着実に「家族」になっていったのだ。
猫との関係は、一緒に過ごす月日の長さによっても変わってくる。我が家でも家に来た当初、全く抱っこができなかった愛猫がここ数年でゴロゴロと喉を鳴らしてくれるほどの抱っこ好きに変わってくれ、とても嬉しい気持ちになった。信頼関係を結ぶのに本当に必要なのは、言葉ではなく、相手を想う気持ち。人と動物は言葉ではコミュニケーションは取れないけれど、心を通い合わせることはできるのだ。湊文氏の相思相愛な日常を通して、その事実を再確認すると、もっと愛猫との絆を大切にしていきたいと思わされる。
2年前、取材させてもらった時、「菊ちゃんが来てからすることが増えました」と湊文氏は語ってくれた。あれからずっと、菊ちゃんは夫婦2人にとって生きる原動力であり、宝物でもあったのだと思うと、温かい涙がこぼれる。赤い糸で結ばれていた3人のなにげなくも幸せな日々を、これからもずっとずっと見届けていきたい。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『猫の菊ちゃん』
著者:湊文
出版社:株式会社 KADOKAWA
価格:本体1,000円+税
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000454/