『SLAM DUNK』はなぜ“ダンク”で終わらなかったのか? 『DRAGON BALL』との共通点から探る、ヒーローの条件

主人公だけの力で物語を終わらせなかった

最後の決戦が描かれた『DRAGON BALL』42巻

 元気玉は、人間をはじめとした、あらゆる生命から少しずつ力(「気」)をもらって巨大な球体を作り、それを敵にぶつけるというものだが、なぜここにきて、そんな(言葉は悪いが)新鮮味のない必殺技を鳥山明は選んだのか。それは、先に述べた『SLAM DUNK』の最後に桜木が放ったシュートが、彼ひとりの力によるものではなかったのと同じことで、『DRAGON BALL』の作者もまた、主人公だけの力で物語を終わらせるのを「よし」としなかったからだろう。結果、孫悟空は世界中の人々の「気」を集めることに成功し、超特大の元気玉を魔人ブウにぶつけて、勝つ。当然、その勝利の裏には、ベジータの身を挺した戦いや、仲間たちの協力、そして、無数の名もなき人々の想いが込められていたわけである。

 そう――長い物語の最後に終生のライバルと心からわかり合い、派手ではないが、多くの人々の想いをつないだ必殺技で勝負を確実に決める。いささか強引にまとめさせてもらえば、それこそが誇り高き『少年ジャンプ』のヒーローの条件のひとつ、だといっても過言ではないだろう。

[注]カカロット……孫悟空のサイヤ人としての名前

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter:@kazzshi69

■書籍情報
『PLUS/SLAM DUNK ILLUSTRATIONS 2』
井上雄彦 著
価格:本体3,600円+税
出版社:集英社
公式サイト

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