『SPY×FAMILY』は「まぜるな危険」をやってのけたーーシリアスとコメディがシームレスにつながる面白さ
また、アーニャが超能力で、ロイドとヨミの正体に気付いているという設定が巧い。これがストーリーの要所で活用されている。さらにイーデン校のシステムも、物語を膨らませることができるようになっている。スパイ・殺し屋・超能力者を混ぜることで、いくらでも危険で面白い話が創れるだろう。「まぜるな危険」。だが、それがたまらなく楽しいのである。
ところで現実の東西冷戦は、ソ連のゴルバチョフの改革(ペレストロイカ)により、大きく二国間の関係が改善される。そして東欧革命による、ベルリンの壁の崩壊が決定打となり、ついに冷戦は終結した。一定以上の年代の人なら、テレビで壁の崩壊する瞬間の映像を見たことだろう。多くの人が、これで世界はより良い方向に進んでいくと思ったものである。もちろん私もそうだ。ところが実際は、両大国の重しがなくなったことにより、各地で民族紛争が噴出。世界はさらなる混沌に陥った。人間とは愚かなものである。
だから本作の結末が気になる。世界平和を求めて、危険なスパイ活動を続けるロイドの願いは叶うのか。疑似家族はどうなってしまうのか。それを知りたくて、まだまだ続くであろう物語を、追いかけてしまうのである。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書籍情報
『SPY×FAMILY』1〜3巻(4巻・5月13日発売)
著者:遠藤達哉
出版社:株式会社 集英社
価格:本体480円+税
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/spyfamily.html