『ゴールデンカムイ』第七師団を率いる鶴見中尉のカリスマ性 二階堂との関わりから読み解く

 『ゴールデンカムイ』239話では(『週刊ヤングジャンプ』22・23合併号)では杉元一派の船旅ではなく、第七師団・宇佐美上等兵と菊田特務曹長の様子が描かれる。札幌にて連続娼婦殺人事件の張り込みをしていたところ、遂に犯人らしき人物が目の前に現れたのだった。

 必死に追いかける二人は、連続殺人事件を食い止められるのだろうか? すでに殺害現場は二箇所存在し、犯人の目的や動機は未だ不明である。あまりお互いを信頼しきっていないであろう、宇佐美と菊田のコンビプレイもどうなることやら。二人の活躍にも大きな期待が寄せられる。

心の隙間に入り込む

『ヤングジャンプ 22・23合併号』表紙

 第七師団と言えば、圧倒的に鶴見中尉の存在が大きい。信頼は大きく、部下たちは最早崇拝していると言っても過言ではないだろう。時にそれが狂気的で、尚且つ鶴見のカリスマ性には脱帽せざるを得ない。なぜか彼の周りに集まる人間は非常に個性的で、一癖も二癖もあるのだが……それが第七師団を印象付ける“良い要素”にもなっている。

 鶴見が人を惹きつけるのは、心の隙間へ入り込む事に長けているからであろう。今までの活躍を見れば分かるが、特に印象的だったのは「いご草ちゃん」の件である。第七師団の月島軍曹は日清戦争後、いご草ちゃんと駆け落ちを約束していたのだが、彼女は突如行方不明に。身投げした話を耳にし絶望する中、鶴見が現れ「自殺はしていない」と一部始終を説明し始めたのだ。だがこれは嘘で、全ては彼を取り入れるために考えた策だろう。いご草ちゃんの真相は結局謎のままであり、実際は生きているのか、死んでいるのかさえ定かではない。

 月島は「鶴見は甘い嘘で救いを与えるのが得意だ」と毒づいているも、中尉の傍に身を置くようになったのは事実。いご草ちゃんの真実がどうであれ、彼もまた鶴見のカリスマ性に惹かれた一人の男なのである。あの冷静な月島を揺るがせた衝撃的なエピソードだ。

 自分のために命を投げ出し、忠誠心の高い部下を揃えるべく奮闘してきた鶴見。ゆっくりと時間をかけて“理想の形”を作りあげていくその姿は、流石としか言いようがない。だが自分の目的のためなら甘い嘘も問わない、恐ろしき人間でもある。

 現に鶴見に心酔している二階堂浩平を見ていると、不安な気持ちに襲われるのは筆者だけだろうか? コミカルに描かれているシーンはあるものの、彼はもう人間兵器のような姿になりつつある。どんなに傷を負っても、モルヒネ中毒でも見捨てない鶴見だが、どこか「使える駒は取っておく」という本音が見え隠れしているような……。プレゼントした義足や義手も、裏の意味を読み取ってしまえば心から喜べないはずだ。だが当事者の二階堂は、もはや疑うという行為さえ知らないのだが。

関連記事