孤独死は独身30代にとって他人ごとではない カレー沢薫『ひとりでしにたい』が突きつける“終活”のリアル

子供が老後の面倒見てくれるとかもはや都市伝説ですよ

 表紙をめくってすぐ、そでにある言葉がグサリと刺さる。カレー沢薫の『ひとりでしにたい』は面白いだけでなく、いつか必ず訪れる自身の死について真剣に考えなければならないと強く思わせてくれる終活漫画だ。

 主人公は学芸員をしている山口鳴海、35歳、独身。少し前にマンションを購入し、猫とふたり悠々自適に暮らしている。推しはアイドルグループ「5and more」の白岩比呂斗くん。お仕事と推し事で日々充実した毎日を過ごす鳴海だが、伯母の孤独死を機に自分の人生について考えるようになる。伯母は生涯独身で仕事では管理職まで登り詰め、いつも身綺麗にしていた。美しく優しい伯母に、幼い鳴海もずっと憧れを抱いていた。だが、晩年には親族との交流も殆どなくなり、鳴海自身も疎遠になってしまい、定年間近の頃には卑屈で愚痴っぽいおばあちゃんになってしまった。そんな彼女はお風呂で亡くなり、長い時間放置されて殆ど汁のようになって発見された。伯母のようになりたくない。そう思った鳴海は婚活を始める。突然婚活を始めた鳴海に、年下であり彼女の職場に出向している公務員の那須田は辛辣な言葉をぶつけまくる。

結婚すれば将来安心って昭和の発想でしょ?

30半ばの女とか「需要」ないですよ

そもそも女のほうが長生きなんだから最後は結局「ひとり」じゃないですか

 彼の言葉は鳴海を突き抜けて読んでいるこちら側にもグサグサ刺さってくる。一話だけでこのパワーワードの数々。一巻丸々読み終えた頃には立派な子供部屋おばさんである私は満身創痍の落ち武者のようになっているんじゃないだろうか。鳴海は安易に婚活に飛びついた自分を反省し、孤独死したらどうなるのか、孤独死しないためにはどうしたらいいのかに考えをシフトさせていく。

 那須田が鳴海になぜこれだけ突っかかってくるのか。それは彼が鳴海に好意を持っているからなのだが、猫と推しに夢中の彼女にそれはなかなか伝わらない。女性にどうやって話しかけたらいいかわからなかった彼がようやく見つけた鳴海との共通点、それが「将来設計」だった。どう考えても気になっている女性に真っ先に振る話題ではない。将来に対してはしっかり考えているのにこういう場面で選び間違いをしてしまう。かわいい。

 だが、鳴海と那須田が甘い関係になる気配は欠片もない。それどころか鳴海の発想の古さや、職業選択のミスについて淡々と語られていく。つらい。何がいちばんつらいって鳴海自身が言われるまでそれらに対して全く自覚がなかったことがいちばんつらい。鳴海に投げかけられる言葉はすなわち読み手である私に向けられた言葉でもある。続刊は今年の末に発売予定。鳴海が終活に向けてどう具体的に動いていくのか、さらなる展開に注目だ。

 そして、「終活なんてまだまだ先っしょ」と思っていた私にあとがきで作者から強烈なパンチがお見舞いされる。

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