『呪術廻戦』はエンタメ漫画の最前線へ 最新10巻「渋谷事変」で描くリアルなバトルの興奮
近年のジャンプ漫画では、今まで登場した敵と味方が一斉に介して、大規模な戦闘を繰り広げるシーンが大きな山場として用意されている。『呪術廻戦』の「渋谷事変」は、入念に用意された序盤の山場で、おそらくここで最強の呪術師である五条悟が何らかの形で戦線離脱となり、その後、虎杖悠仁や伏黒恵たち五条の教え子たちの物語へと世代交代がなされるのではないかと思う。
もともと『呪術廻戦』は学校や廃墟といった限定された空間の特徴を活かした戦いを描くのが圧倒的に上手い作品なのだが、「渋谷事変」は、ハロウィンの渋谷ーー渋谷ヒカリエや渋谷駅のホームといった実在する場所を舞台にド派手な戦いが繰り広げられるのだから、盛り上がらないわけがない。
これは、東京を舞台に悪魔たちとの戦いを描いたアトラスのRPG『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズ、怪獣映画の『ゴジラ』シリーズや『ガメラ』シリーズにも通じる、見知った実在する風景が戦いの舞台となる面白さで、現代の日本を舞台にしているからこそ可能なリアルなバトルである。
おそらくジャンルを問わず、エンタメ作品を作っている人なら一度は挑戦してみたい夢のシチュエーションだろう。同時にそれを描き切ることがいかに困難で手間のかかる作業かは、読んでいるだけで伝わってくる。だからこそ、この「渋谷事変」は必見だ。エンタメ漫画の最前線と言える描写の宝庫である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『呪術廻戦』10巻(ジャンプコミックス)
著者:芥見下々
出版社:株式会社 集英社
価格:本体440円+税
公式サイト:https://www.shonenjump.com/j/rensai/jujutsu.html